紅〜kurenai〜






「寛人、集めろ」


「了解」




それだけのやりとりを交わすと寛人は幹部室から出て行った。





「あと10分したら全員集まる。自己紹介はその時だ」




寛人と仁人の今の会話のどこにそんな様な話が含まれていたのかがわからない。


けど、コイツらだから通じることがある。


言ってしまえば家族よりも近くでずっと一緒に過ごしてきている相手だからこそ少ない言葉数で足りるんだ。









仁人は自己紹介はまだしなくて良いということを私に伝えると幹部室の中にあるもう一つの扉に姿を消した。




「あそこが総長室」




そんな仁人を目で追っていたからなのかアイが教えてくれた。


ここで「そうなんだあ〜」と初めて知る声を出せないのが何だか心苦しい。




ただ、黙っていることしか出来ない自分はとことん嘘をつくのが下手なのかもしれない。




……たぶん、アイの前だからだ。





アイの前にいる時ほど眼鏡をしといて良かったと思うことはない。




他の奴らの前だったら幾らでも容赦なく嘘を吐ける。



それなのにアイの前では必死に繕った壁が一瞬にして崩れ落ちてしまうのは


アイが––––––––––––––––––






「揃ったよ」





10分経ったのか、幹部室に入ってきた寛人の声によって私の思考回路は遮断された。





タイミングよく総長室から出てきた仁人はさっきの様な辛気臭い顔とは程遠いいつもの無表情な顔に戻っていた。




















「行くぞ」











その言葉に反応してソファーから立ち上がり出口へと向かう加賀と蒼麻と悠麻とアイ。




扉付近にいた寛人に続いてここから出て行った。







それを見ていた私は未だソファーから立ち上がれずにいる。





口では認めたものの、心の奥底では本当にコレで良いのかと葛藤している自分がいるからだ。








そう思ったって今更どうすることも出来ない。












「サクラ」




いつの間にか私の目の前まで来ていた仁人に腕を引っ張られ立たされた。





「嫌なら止めるか?」



仁人は心配そうに顔を覗き込んでくる。




「ううん、大丈夫」




たった10分で仮にも私のために集まってもらったのに、皆んなの前に出るのが怖いとかそんな可愛い理由じゃなくてこの選択であってたのかが怖いっていう卑劣な理由で中止にするのは申し訳ない。





成る様に成る。



なんて言葉あるけど、それじゃダメなんだ。










「俺がお前、守ってやる」






扉に向かって歩き出した私の耳に口を寄せてそっと囁いた仁人の声は何処までも優しくて温かい声で








「ありがとう」







罪悪感で満たされた胸が締め付けられ、泣きそうになるんだ。















もう、隠し通すしか他に手段がない。


それが最善策だ。



アイを…

コイツらを守るための––––––––––––