「やっぱお前で正解だ」
一通り笑終えたのか1つ咳払いをして座り直した仁人は至極嬉しそうな顔でそう言った。
仁人だけじゃなく周りの皆んなも何処と無く嬉しそうな顔を浮かべている。
そんな空気に水を差すようで悪いんだけど…
「私、此処に通うとは言ったけど姫になるとは言ってない」
条件は、全員OKなら毎日此処に通うということだ。
獅子の姫になるとは言ってない。
嬉しそうな皆んなには多少申し訳ないけど私もそこは譲れない。
それなのに、1人だけニヤリと口角をあげる奴がいた。
1人…じゃない。2人だ。
この獅子を支えるトップ2人。
「な、何よ?」
すごく嫌な予感がするから出来ることなら聞きたくないけどこれを聞かなきゃ始まらない気がする。
「サクラに姫になる気がなくたって毎日此処に通ってればいずれ周りの奴らはお前を姫と思う」
迂闊だった。
何故今までそんなことにも気付かなかったんだろう。
女であるあたしが此処に毎日のように通っているならその情報がいつ外に漏れてもおかしくない。
現代の発展した情報社会じゃ広まるのも時間の問題。
きっと、数日でここら一帯には広がるだろう。
「心配ない。ちゃんと守ってやる」
自分の不注意さに顔を青くしていれば、それを上手いこと勘違いした仁人が普段よりも優しい声で言った。
「そうだね、サクラちゃんなら俺も大歓迎かな。ね、辰?」
加賀に視線を流しながらふわりと笑う寛人の笑顔が少しだけ晴れている気がした。
「…他の女よりかはな」
小さい声だったけどそう言う加賀の顔はいつもみたいに敵対心剥き出しって顔ではなかった。
「こんな女見たことねえ」
「それ褒めてるの?蒼麻」
貶されてるのか褒められてるのか正直わからない所だ。
鋭い目をしていないあたり貶しているわけではなさそう。
なんだ、皆んな少しは良いとこあんじゃん。
まあだからって此処にずっと居座るつもりもないし心を開くつもりもないけど。
