紅〜kurenai〜






「行くぞ」



いまだ私のプチ悪口を言っている寛人と悠麻の会話を終わりにしたのは仁人のそんな声だった。



そして、その声にいち早く反応して屋上から出て行ったのは紛れもなく加賀と蒼麻。


その素早さと言ったら拍手を送りたくなるくらいだった。





そんな2人に続くようにじゃれ合いながらここを出て行くいつまでも元気なアイと悠麻。その後ろを電話中の寛人が歩いていた。



いつもは逃げていたけど今日は逃げらんない。


そこらへんのことはちゃんと頭で理解している私は皆んなに続くように歩き出した。





のに、数歩歩いたところで勢いよく右腕を引っ張られた。


そんなことできる人はまだここを出ていない仁人しかいないわけで。



「なに?」



そう振り返ればいつになく真剣な顔をした仁人がいた。



その目がさっきの匡ちゃんと皇くんの目に重なって見えて、思わず眉を寄せた。




その眼は、嫌いなんだってば。




私にそんな真剣な目を向ける価値なんてないよ。

私なんかにそんな綺麗な目を向けないでよ。





心の奥の叫びは私の口から吐き出されることはない。





「何かあったのか?」



顔はいつもと同じ無表情だけど声色からして心配してくれているのがわかった。



「何で?」


「いつもと違う」



隠して平然を装ったつもりだったけど、コイツには1ミリも通用しなかったみたいだ。



匡ちゃん達に言えないんだから仁人たちにも言えるわけない。


ただ、気づいてくれた事に嬉しさを覚えたのは確かだった。




少しずつ、少しずつだけど、私の”心”は多分コイツらを求めている。

私”自身”はコイツらが嫌いだけど、私の”心”はコイツらを…仲間を求めている。




そのことに気づくのにそんなに時間はかからなかった。



目の前に立つ仁人に、そんな目をしないでと言う嫌悪感を持つと同時に、私を見てくれている人がいるという安心感をも持つ私がいる。






これ以上私がなにも言わないと悟ったらしい仁人は諦めたのかこっちに向かって歩き出した。


まあ私の後ろに扉があるから当たり前なんだけども。



そして、すれ違い様に私の頭をポンッと軽く叩きながら低い心地よい声で言った。





「1人で抱えるな」



「…っ」








全く別人なのにいつの日か言われた言葉とリンクして、”貴方”に言われた錯覚に陥ってしまう。

















「サクラ」


一向に歩き出さない私を扉のところで待っていてくれる仁人。



貴方じゃない、仁人だ。



そこをはき違えたらきっと私は堕ちる。





「ごめん」



待っててくれた仁人に一声かけ仁人と一緒に屋上を後にした。