「じゃあ、あんたが相手してよ」
そういう少年の眼は相変わらず血走っていて、変わったと言えば口角が上がっただけだ。
やだねぇ。こういう奴。
血の気の多い奴は後々損するぞ。
「喧嘩して楽しいのか?」
掴んだ腕を離すことはせず少年に問いかける。
「は?」
想定外の質問に鳩が鉄砲玉を食らったような間抜け面をする少年に少し笑いそうになったけど、堪えて再び問う。
「ただの憂さ晴らしか?」
低くなった俺の声に一瞬怯んだけど、気にせずに続ける。
「だったら何だよっ!」
空いている方の手で、俺の顔めがけて拳を振り下ろしたけど俺ももう片方の手でその拳を受け止める。
「脇がガラ空きだぞ」
その言葉と同時に少年の左の脇腹に軽い蹴りを入れた。
「ってぇ…」
腹を抑えて転がった少年に近づき
「おい」
1つ、アドバイス。
「もう、無駄な喧嘩すんじゃねえぞ」
腰を下ろし、少年と目を合わせれば元に戻った目に一安心。
「そんな返り血だらけの奴に言われたくねえよ」
口調は生意気だが、俺に勝てないと思ったのか攻撃の姿勢は見られない。むしろ若干不貞腐れているような気もする。
コイツ案外可愛いとこあんじゃねえか。
「俺は汚い世界の人間だから仕方ない」
「…意味わかんねえ」
ああ、意味わかんなくていいよ。
きっとお前が生きているうちに知ることのない世界だから。
この世にこんなに汚れた世界があるなんてお前はまだ知らなくていい。
