「どこ行ってたの?サクラちゃん」
席に着いて早々、授業中だっていうのに構わず普通の声音で私に話しかけてくる悠麻はどうやら昨日の私の「学校では話しかけないで」という言葉を理解していなかったようだ。
多分、幼稚園生でもわかるような内容だった思うけどもっとわかりやすい言葉を使用しなきゃいけなかったってことか。
次の対策を考えながらチラリと前を見れば、どうやら今の授業は皇くんが担当する数学だったみたい。
まあ、いつも通り生徒達に「喋べんじゃねえぞ」というような圧かけながら授業を進めている皇くんに終始ビクビク状態のみんな。
…昨日仁人に連れて行かれた倉庫で見た子達も震えているのは気のせいではないと思う。
その中、堂々と話すのは私の隣に座る幼稚園児以下の馬鹿のみ。
只管私に話しかけてくる悠麻は皇くんの鋭い視線に気づいていないみたい。
そして、すごい形相と殺気でこっちに歩いてくる皇くんにも気づいてない模様。
チラリと右に視線を流せば運悪く目と目がバッチリと合ってしまい
「やっとこっち見てくれた!!」
激しく後悔。
その間も私達と皇くんの距離は着々と縮んでいて、そしてついに。
「サクラちゃ–––––––」
「おい、新名。てめぇ俺の授業でそんなにペチャクチャ喋るなんて良い度胸してんなあ?」
私の小さく呟いた「バカ」は皇くんの雷に掻き消された。
「あ、藍セン…っ?!」
どうやら、たった今、この授業の教科担当の先生に気付いたみたいだ。
因みに、藍沢 皇(あいさわ こう)が本名だから生徒達から藍センって呼ばれているらしい。
「わーっ!!ごめんっ!もう静かにするから見逃して!!!」
必死に猛抗議する悠麻を仁王立ちで見下ろす皇くんは最早教師の面構えではない。
殺気立ってるその姿は
まさに、貂熊(クズリ)の時の顔だ。
