普段よりも遅い足取りで教室へと向かう途中、皇くんが静かに口を開いた。
「匡哉さんはただ哀しい顔をさせたくないだけなんです」
「うん、知ってる」
全部、わかってるよ。
匡ちゃんの想いも皇くんが言いたい事も。
アイがこの学校にいる事を知ってしまう形はどうであれ、匡ちゃんの口から告げられたらきっと私は普段の私じゃいられない。
信頼できる匡ちゃんが近くに居るなら尚更。
きっと、その事実をどう受け止めようかと迷って悩んで負のループに陥る。
私がどんな人であろうとも味方でいてくれるってわかってるから躊躇うことなく弱みを見せてしまう。
けど人に弱みを見せることを私が嫌っているのを匡ちゃんはわかっている。
信頼とか仲間とか、そんな深い言葉で言い表す程親しい関係でもないただの同じ高校の不良…それも私が心底嫌う人達に囲まれた中で何も知らずに再会すれば、動揺したとしても、弱みを握られたくない探られたくない、そういう思いの方が強いから自分を保てる。
敵に弱みを見せるほど馬鹿な人はいないでしょう?
自分を繕うくらい私にとっては簡単なこと。
伊達に死んだほうがマシな人生を生きてきたわけじゃない。
だから、匡ちゃんは敢えて私には伝えなかった。
匡ちゃんの前で取り乱した自分自身を責めさせない為に。
あの人が出す答えはいつも私が第一の優しい答えだ。
その答えにいつまでも守られ甘えてる私も私だけど気づいてるよ。
私の為だとか言いながらホントは匡ちゃん自身が私の戸惑って動揺した哀しい顔を見たくないだけだって。
そして、”私の為”と言う偽善の言葉に本心を隠している自分自身を責めていることに。
匡ちゃんを苦しめているのは確実に私だってわかっているけど、それでも気づかないフリをする私はきっと根が既に腐っている。
仁人達が感じているほど良い女でも良い子でも何でもない。
それに匡ちゃんだけじゃない。
隣で心配そうに私に視線を向けている皇くんだって同じ思いをしている。
そんな2人に素直に”ごめんね”も”ありがとう”と言えるほど私は強くないみたい。
わざわざ教室まで送ってくれた皇くんを振り返り
「わかってるから、大丈夫」
それだけ言って後ろのドアから教室の中に入る私は”強がる”事しかできないんだ。
