6時間目の授業が半ばに差し掛かった頃、俺はノートを定規で切り千夏当てに手紙を書いていた。



あーねみー。


授業はつまらない、念願の相合傘も雨が降る気配がなく出来ない、降ったとしても傘が2つある限り相合傘は不可能。


いや、千夏の折りたたみ傘を壊れば...いやいや、ダメだろ。



頭の中で様々な妄想を繰り返しているうちに授業の残り時間は10分を切っていた。




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千夏に手紙を渡し終えると走って自分のクラスまで戻った。


千夏のクラスの担任はあまり俺のことをよく思ってないらしく、よく俺を見る度にいちゃもんを付けてくる。



急いで教室に入ると、クラスの奴ら数人が窓の外を見ていた。


「やだ〜、今日傘持ってきてないよー。」

「はーまじ?ふざけんなーーー。」


「天気予報曇って言ってたじゃんかよ!」



嘘だろおい?雨、降ってきちまったぜ?



自分の感が当たったことに驚くのと同時にいい考えまで思いついた。



無理やりにでも傘を受け取らなければいい。


そう、単純で簡単な答え。



よし決めたっ、今日こそは相合傘をすると心に決めた俺は帰りの会が終わるのと同時に下駄箱に向かった。



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「小鳥遊?そこで何してんの?」


下駄箱で千夏を待っていると清水が背後から話しかけてきた。


「いや、千夏待ってるだけだけど」


俺が普通に答えると、清水は顔を歪ませながら肘で肩をつついてきた。



「あーそーゆうことっ、それなら千夏今日は日直だから、日誌出してから来ると思うよ?少し遅くなるって言ってたからあたしは先にかいらせてもらうわ、じゃーねー」


そう言いながら清水は、グットポーズをした後に1人でスタスタと帰っていった。



あいつ、気ーつかったのか?なんだよ女の癖してっ



ムスッとした顔で周りを見渡して見ると、既に大半の生徒は帰った模様で、下駄箱には少人数の靴しか残ってなかった。



まあ、遅くなるのは逆に好都合か。千夏恥ずかしがり屋だから、人前だと拒否されるとも思ってたし。




そんな考えをしていると後ろから千夏が声をかけてきた。



その途端今まで無かった緊張感がいきなり込み上げてくる。



やべー、なんも考えてなかった。



千夏が何か言っているようだったが、内容も分からないまま俺は適当に返事をしてしまった。



どうやって切り出そう。なんて焦りに焦っていると、千夏が俺に折りたたみ傘を差し出してきた。


もう、一か八かだ、、、



千夏の差し出してきた腕を掴むと、グイッと俺の胸に引き寄せて千夏から傘を奪った。



「いいだろ?たまにはこういうのも________」



今俺、結構臭いセリフを言ったよな?


そう思いながらも2人で歩き始める。




動揺しまくってた気持ちが落ち着きだし、やっとまともになってきた。そっと千夏を見てみると、顔が真っ赤になっていて、今にも煙が出そうなくらい緊張しているのが見ただけで分かった。



なんだ、俺より千夏の方が緊張してるじゃん。


そう分かった俺は何だか面白くなってきて、距離を取ろうとする千夏をわざと余計に密着させたりして遊んだりした。



なかなか面白い体験だった。






駅に付くと、お互いの距離がスーーっと開き、千夏が深いため息をついた。



「なに、そんなに恥ずかしかったのかよ?」



ニヤニヤしながら千夏の顔を覗き込むと、口を膨らませながら言い返してくる千夏が余計に面白くて、思わず少し笑ってしまう。



千夏が面白かったと正直に伝えた後、千夏が鞄をあさり始める。


念願の相合傘が叶った俺は、大満足しながらその様子を見つめていると千夏がまた思わぬものを取り出してきた。



「じゃあ、バイバイっ」



そう言った千夏の手にはSuicaがにぎられている。




え....ちがう。


今は傘を渡されるはずなのに、どうして千夏はSuica取り出したのだろうか...



いや、違うのはこれ(今)だ。



これは今日何かじゃなくてあの日の夢なんだ、


だとしたらこの後俺は....



それに気づいた瞬間、頭の中にクラクションの爆音が響きわたり、反射的に俺は後ろに振り向く。



すると、トラックのライトが眩しすぎるくらいに目に入り、そのまま視界が真っ白になった。




…_…_…_…_…_…_…_…_…_




「うわぁ!!」


目が覚めるのと同時に体が驚いたかのように飛び起きた。



なんだ夢か、トラックに引かれた夢...


ズキッ

ん?なんだ?



頭に少し痛みが走り手で触ってみると、俺の頭には大量の包帯が巻かれていた。



え、夢じゃなくて.現実に俺は引かれてたのか?


どうやら俺が寝ていたのは病院のベッドのようで、左手には点滴が付いていた。



何がなんだか分からず当たりを見渡してみる。



「うそ...颯斗...っ」



いきなり名前を呼ばれ声の方に顔を向ける。



「奇跡がホントに起こったんだ、」



「お前、誰だよ.....」



そこには、髪の長い女が今にも泣き出しそうな顔をして俺の顔を見つめていた。