「颯斗!!」


病院に駆けつけると颯斗の病室まで病人の人が案内をしてくれた。

中に入ると昏睡状態の颯斗と、両親の姿があった。


「どうしてっ」


酸素マスクに点滴、頭には包帯がぐるぐる巻きにされた状態の颯斗を見て体の力が抜け落ちた。


「歩道を歩いていたようですが、酔った車の運転手が丁度小鳥遊くんに突っ込んでしまったらしく、」


床に座れ込んだ私にナースは事故の説明をして来たが、正直そんなこと私にはどうでもよくて、今知りたいのは颯斗が体調だけだった。



「あの、颯斗の状態は?」


恐る恐るナースの方に聞いてみる。


「多分、もうこのまま...」



部屋の空気が重くなっていくのがわかった。



突然、静まり返った病室のドアから白ひげを生やしたお年寄りが入ってきて私の後に立つようにして立ち止まった。



恐らくこの病院の先生だと思う。



「彼は体には大きな怪我はしていないが、その分脳に相当なダメージを受けております。恐らく、目を覚ます確率は50%以下でしょう。」




40%以下、その数字はここに居る私を含めた人達にとってはあまりにも残酷すぎる数だった。



医者の話を聞いた颯斗の母親は父親にもたれ掛かる様にして倒れ込んでしまっている。




最悪な報告を受けた私達が、とても深刻な気持ちで眠っている颯斗を見つめることしかできないでいると、その空気を断ち切るかのように医者ば再び話を始めた。



「しかし、前歴に目覚める確率が20%のしか無かった少女が、半年後に目を覚ましたというケースがあります。世界では0%と言われた患者が目を覚ました事もありません。今、颯斗くんは戦っています。だから、我々も颯斗くんを信じてあげましょうよ」



そう伝えると医者は病室から出ていった。


颯斗も戦ってる。きっと、



千夏は颯斗の頬をなぞる様に触ると、おそらく今、廊下を歩いているだろう医者を追いかけた。




「あの!先生!聞きたいことがあります!」



千夏の叫び声が病院の廊下に響き渡る。



直ぐに気づいた医者のお爺さんはくるっと体ごと背後を向いた。


千夏は足を止めた医者の所へと走って質問を続けた。


「眠ってる颯斗に私が出来ることって何かあるでしょうか。」



千夏は先生の目を真剣に見つめる。



すると医者のおじさんはニコリと目を細めて笑いながら答えてくれた



「そんな事なんて沢山ありますよ。話しかけてあげたり、手を握ってあげたり、颯斗くんは眠っているかも知れないけど、起きているかも知れません。起きているとは、体を動かせづにいるけど意識がある事を言います。その場合、颯斗くんは感覚もあるし耳も聞こえてます。だからもし起きていたら悲しんでいる貴女の事を颯斗くんは見たくないと思います。だから信じて笑いかけてかあげてください。奇跡は信じてる人の元に降りてくるものですから。」



先生は難しそうで単純な事を教えてくれると。仕事が残っているからとその場を去ってしまった。


私は立ち尽くしたまま、遠ざかる先生の背中を見ながらこれからの事を頭の中でぐるぐると考えていた。