「・・・・なに、やってんの、」
「……え!あっ…すみませ、」
「・・・思いっきり、落ちたから、割れてたらごめん」
「や、多分それは、だいじょーぶ、です……」




あたしは慌てて足元に落ちた筆箱を拾った。


すぐに彼に目線を戻したら、何事も無かったかのようにまた、パレットに顔を向けていた。





「あの、…………何を、描かれているんですか?」




聞いてもいいのだろうか。
少し考えたけど、何故だか、どうしても気になったから聞いてみた。





「・・・・・・別に、なんも、」





想像してなかった答えに、あたしは少し焦った。





「え、……」
「今は、なんも頭に浮かんでない。・・・ほら」



くるりと向けられたキャンパスは、まだ絵の具がこれっぽっちもついてない、真っ白だった。




ぼけっと突っ立ってたら、




「……帰らないの?」






あたしの顔をじーっと見つめて、少し首をかしげながら聞いてくる。



あたしはこの時、不意にも可愛いと思ってしまった。