「お前も、なのか…?」
「そうじゃなかったらこの場にいない。招待状、だろ?ここにある。」
そう言って壮司は一通の白い手紙を取り出した。
 『真夏の太陽が照る四丁目。四丁目の怪談その八のネタにもなっているこの幽霊屋敷にいらっしゃい。』と書かれた手紙を貰った俊樹は不思議がりながらも幽霊屋敷にやってきた。すると壮司にも同じ手紙が届いていたということが今解った。
 「あ…本田さんに麻木さん。此処で会うのは初めてですね。何かありましたか?」
「結城、さん…?」
「結城さんもどうして幽霊屋敷なんかのところにいるの?」
「家、なので…『幽霊』屋敷と呼ばれると少しヘコみますね。」
結城はクスッと眉間にシワを寄せながら笑った。
 「この屋敷が、結城さんの家?」
「そうですよ。…ま、まぁ真夏の間だけ使う別荘のような家ですが。パーティーの準備をしないといけませんので、私はこれで」
そう言って去ろうとする結城の腕を俊樹は咄嗟に掴んだ。
「これ、送ったのって結城さん?」
焦り気味の声で結城に手紙を見せた。すると結城は目を大きく見開いた。
 「…招待状の写真って見ましたか?」
「い、いや…手紙に写真は指示があってからって書いてあったから…まだ見てない。」
「う、うそっ…お、俺さ、写真見てから手紙読んだんだけど…」
結城はふぅ、と一つ大きく息を吐いた。
「…、パーティーを始めなければ…本田さん、麻木さん。お二人にとっておきのゲームをご用意させて頂きました。生きて帰ってきてくださいね。」
「ちょ、ちょっと…ねぇ、ねぇどういうことなの結城さんっ!」
「死ぬかもしれないの?俺、まだ人生終わらせたくないよ…?」
 「お二人なら…生き延びられると思います。この屋敷にまつわる怪談はご存知ですよね?…毎年二人の男が真夏の夜、この屋敷で居なくなる。原因は毎年この時期に行われるパーティーゲームの鏡の間のせいなんです。でも…これは理由があって行われるので、私にはどうしようもないのです」
「その鏡の間ってのを詳しく教えてくれないか?」
結城はコクンと頷くと重々しく口を開いた。
 「…鏡の間の本当の名は『鏡の迷宮』。内容は鏡の壁の迷路ですがその鏡に問題があるんです。…挑戦者は霊を必ず見るんです。その正体は自分に取り憑いた霊なんです。そこで見続けた挑戦者は次第に霊に取り込まれます。そして哀しいことですが、悪霊になってしまいます。そうとなると生かしておけなくなるんです。結果、死者が出て帰ってこられなくなるんです。これが鏡の間、そして四丁目怪談その八の真相です。」
「…どうして結城さんはそんなことをしているの?」
「神隠しに遭わないためです。これ以上は外部に漏らすと怒られるので言えません。」
 結城はキッパリと言うと門を開いた。そしてクルリと振り返るとさっきとは全く違う、生き生きとした笑顔で言った。
「私の家のパーティー、思う存分楽しんで下さいね!」

 そして時はちょっとだけ過ぎる。
 第一ゲームはお茶会。ウェルカムティーという名の生きるか死ぬかだった。三つのお茶のうち二つは猛毒、一つだけ最高のブレンドティーだ。探す方法は香りと色だけ。二人は苦労しながらも勘でなんとか切り抜けた。ウェルカムティーを当てられたから本当のお茶会が始まったのは少しだけ嬉しかった。
 第二ゲームは宝探し。しかしこれも名前だけのものだった。探す宝は最上階にある鏡の間へ行くための鍵だ。鍵を見つけて結城のところに行くと即鏡の間がスタートされる。最上階へのトラップも数多く存在し、二人は間一髪で助かったことが多々あった。

 「凄い…こんな短時間で帰ってきたのはお二人が初めてです。今までの挑戦者はもっと時間が掛かりますし、二人とも生き残るのも珍しいです。何処かで命を落として鏡の間までたどり着けないのが普通なのに…」
「俺たち、生き延びられるんだよな?」
「それはこれから解ります。無事に帰ってきて下さいね。」
そう言った結城に背中を押されて部屋に入った。すると部屋は鍵で閉められた。
 「…あ、そっちに使うの?」
この場面では少し場違いかもしれない。が、扉を開けるための鍵だと思っていた俊樹には正直驚きがあった。まさか扉を閉めるための鍵だったとは…
 『そろそろ説明をしたいです。良いですか?』
いきなり頭上から声がした。声の方向を見るとそこにはスピーカーがあった。
「大丈夫。」
『一言でいうと此処は迷路です。霊に取り込まれないようにしてください…としか私には言えません。出口に向かってひたすら進んで。では、スタート…』
スタートがちょっとだけ哀しそうな声だった。きっとここで死ぬと思われてる。ならば絶対に生きなくては…
 そう強く心に決めた俊樹は初めの一歩を踏んだ。

 今年の真夏の幽霊屋敷のパーティーも終わった。
そして今年から四丁目の怪談その八は変わった。
そう、生存者が出たのだ。
しかし目撃者によるとそれは女の子だったそうだ。
男が出てきたという目撃者は一人もいなかった。
嘘と本当が混じり合って怪談その八は変わっていく。
これが四丁目の怪談の知る人ぞ知る秘密の話。