あたしは数秒固まっていた。

そのあと我に帰って、さっと立ち上がた。


その気配に気付いたのか、少し驚いたように凌兄がこっちに顔を向けた。


やばい…
目が合ってしまって言い訳に困った。


「じ、辞書っ、借りていい?」


とっさに出たのは、これだった。

あたしは馬鹿だ…

凌兄は思いきり不審な顔をして、珍しいものを見るように眉を潜めた。


「――本当に使うのか?」


ムカつくほどわかられている。
それは嬉しいような、虚しいような…。

もちろん、あたしが使うわけがない。あんな細かい字、見ているだけで頭がグルグルしてくる。


「…う、うんっ!もちろんっ!じゃ、借りてくねっ!!」



このまま話していては、墓穴を掘る。
そしてなにより、この部屋から脱出したかった。


あたしは足だけを一生懸命動かし、そこから出た。