忘れないで…

「啓太!けいた、けいたぁー」

僕は泣きながら啓太の目の前に座り込んだ。



すると、いきなり強く抱きしめられた。

耳元ですっかり低くなった男の子の声がする。



「ごめん。あの日、俺があんなところにボール投げなければ、悠真はまだ生きてたのに…」



「あれは、啓太の所為じゃない、車に気づけなかった僕がいけないんだ。
だから、謝らないで。」


そして、大きくなった啓太は僕の言葉を聞くと、もっと強く抱きしめてきた。

鼻をすする声が聞こえるから、泣いているんだろう。



「僕ね、啓太に忘れられたのかと思ってた」



「え?」


僕が思い切って話してみると、気の抜けた返事が返ってきた。


「啓太、最近全然来てくれなかったから、もう僕のことなんて忘れたんじゃないかって。

誰にも気づいてもらえないし、ずっと1人でこの部屋にいて。

すごく、怖かった…」



一度止まった涙が、また流れだした。