「すき」

私がそう言って

「知ってるよ」

彼がこう言って

そんな会話をしたのは、もう何度めのことか。


彼との距離を少しでも埋めたくて、私はほんの少しの隙間もないくらいに抱き付く。

「君は甘えたがりだね」

そう言って、彼は私の髪をそっと撫でる。その手がこれ以上なく心地好くて、私はそっと目を閉じた。

ずっとこんな夜が続けばいいと、ずっと朝がこなければいいと、願わずにはいられない。

「ずっと側にいて」

「いるよ」

「...嘘つき」

「......」

彼は静かに笑った。


彼の隣には彼女がいて、私の隣にも彼がいる。彼は彼女が一番で、私の一番は今しがた隣で笑う彼だ。


例えば、彼の目前で私と彼女が、深い水の中で溺れていたら、彼は迷わず彼女に手を伸ばし、助けるだろう。そうして、彼は私を....

「...助けてくれない」

そう思わず呟いた私に、彼は聞こえてはいないのか、見つめる私に"どうしたの?"と微笑む。


私はきっと迷わずに、その深い水の中に飛び込んで、彼へと手を伸ばして、繋いだ手を離すことなく、そのまま


一緒に堕ちていく、深い深い底へと。

そんなこと考える私は、きっとおかしい。けれど、それほどに彼が愛しくて仕方ないのだ。


「....ねぇ」

「なぁに?」

「.....」

自分で呼び掛けて、黙った私を彼は見て、また楽しそうに静かに笑う。


「......僕が、好き?」

「...うん」

「知ってる」


そう言って、彼は私に切ない口づけを落とす。


「君はいつまで、そう言って側にいてくれるのかな。」

なんて彼は、馬鹿げたことを言う。



知っているくせに。
あなたが "いらない" と言う日まで。




*end*