「まぁ那月くんいるなら安心だし、あたしちょっと休憩させてもらうわね」



顔冷やしなさよ、と言い残して愛莉は教室に帰っていった。



その後ろ姿を呆然と見つめる私。




「莉奈はいい友達がいるんだな」



「うん、ほんと、かけがえのない友達…」




するとふわっと頭に手が乗って、見上げると海斗がすっごく柔らかい顔をしていて、



「それはきっとお前がいいやつだからだな、ほら冷やしに行くぞ」



「え、一人でいけるよ?もうすぐ授業だし、海斗は戻りなよ!」



「バーカ!お前がいない教室行ったって意味ねーじゃん」




不意にそんな言葉をかけるから、ほらまた…




「……息が苦しいよ」



とくとくと加速する鼓動に、優希先輩に対する罪悪感。



「なんか言ったか?」



ずるいよ……。


今だって私がこけないように手を取って、歩幅を合わせて歩いてくれる。



優しい優希先輩も、同じようにしてくれる。


なのに、



こんなに胸が痛くなるのは、あなただから?






「痛くねーの?」



「いっ、いたい!」



「痛いからって俺を叩くな!」



と同時にチョップが降り落ちる。




「にしても顔殴るとかえげつないよな、あいつら」



「海斗のファンでしょ!ちゃんとファンクラブ開いて注意しといてよね!」



「……だよな」



急にしょぼんとなる海斗に、やっちまった!と思い、すぐさまフォローに入る。



「うそだよ!うそうそ!……助けてくれて、ありがと」



「……おぉ」





そう言うと海斗は手に持っていた大きめの貼るタイプのガーゼを私の頬に貼って、



「これで目隠しにはなるだろ」



と呟くと、そそくさと保健室から出ようとした。





だけど立ち上がった途端にガラッと音がして同時に誰かが慌てた様子で入ってくる。




「莉奈ちゃん!……って君もいたんだ」




私の名前を呼んだ瞬間目の前に立っている海斗に向かって冷たい声を吐く。




「優希先輩!どうしてここが?」



「たまたま2年の階にいた友達が男子トイレにいたみたいで、莉奈とその…女の子達の会話が聞こえたって教えてくれたんだ」




「それで飛んできたわけだ」




私が発言するべきところで海斗が先に声を出した。




「俺きたし、君はもういいよ。授業だろ。助けてくれたんだってね。俺の彼女がお世話になりました」



すると、ありがとうと頭を下げる優希先輩。




「俺のせいだし、俺がいるからあんたこそ帰りなよ。受験生だろ」




「君のせいだから帰れって言ってんの」




この2人はどこまでいっても折が合わない。




「俺が守りますんで安心しててください」



「それって彼氏である俺の役目だよね?」



「好きな女を守るのに彼氏彼女とか関係ないっすよ」



「莉奈ちゃん……莉奈ちゃんは今どっちにそばにいてほしい?」




え?え?え?


そんな究極に危ない質問します!?




「え……。今回は海斗も責任感じてる部分もあるし…先輩は私の彼氏だし……」



そこで私は究極の質問に対する究極の答えを思いついたのだ!!




「私、今は1人になりたいです……」




チラッと2人を見上げると、ぽかんとした顔。




「あ、あー。そういう気分もあるよね〜」



「ごめんな、察してやれなくて」





なんやかんや言って出て行く2人の背を見つめ、ため息を漏らす。




「なんで今、選べなかったんだろう」