「失礼いたしました〜」





午後から使う教材を教室に運ぶ。



小林、あんの野郎、とんずらしやがったな!


なんと私と同じ日直の男子は職員室には来てなくて、結局私が全部持たされているのだ。



はぁ〜、重っ!






キーンコーンカーンコーン…








ギリギリに行ったせいで教室に着く前に、お昼の終了のチャイムが聞こえた。



うそぉ〜〜。







「あれ?莉奈ちゃん?」




後ろから声が聞こえるけど、振り返れない。







「俺だよ!優希!」





優希先輩は私の隣まで来ると、よいしょと、当たり前のように教材を持ってくれる。




な、なんとお優しい!!!







「ありがとうございます…って、いや!そんな!悪いですよ!」




「いいの!俺もたまたま生徒会で遅くなったからこれから教室行くとこだし、一緒に行こ」



ね!っと最高の笑顔で付け足す先輩に何も言えず、




「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えます」




「俺会長だから戸締りだったし、もうお昼休み終わりだからみんないないし、莉奈ちゃんと喋れてラッキー!なんて、ハハハ」



や、やばいよ!!


優希先輩と隣で歩けるなんて!夢みたい!





「わ、わ、わわわ、私も、ラッキー…なんて」





恥ずかしくてだんだん声が小さくなる。




「ほんと?嬉しいなぁ〜。いつも声かけたいんだけど、他の女の子に莉奈ちゃんがいじめられたりするの嫌だから、なかなかできなくて」




少し悲しそうに笑う優希先輩に、昔そういうことがあったんだろうか。





「そ、それでさ!よかったら、俺と…」




優希先輩の顔がどんどん赤くなる。


そんな顔を見ていると私まで恥ずかしくなっちゃって、熱い。






ま、ま、まさか!!



付き合って?それはないない!…じゃあデート?それか!それかも…で、で、でも!どーしよ!優希先輩と、デートだなんて!!





「で、で…」




加速する胸の音が廊下に響きそうな程うるさい。





「で、電話、しない?」







「…でんわ!?」





「う、うん、だめ?」





優希先輩に捨てられそうな子犬のような目で見られて、私、もう鼻血でそう…




「ぷっ!あはは!…いいですよ!じゃあ、連絡先交換しましょう!」




「よかったぁ!これでいつでも莉奈ちゃんと話せる!」





優しい笑顔、やっぱり私、この顔が一番好きかも。




なんか、今日だけで先輩のいろんな顔を知ることができて、すこしでも心の距離が近づいた気がして、嬉しい。





「じゃあ、俺教室にこれ運んでからもう行くね!」





ガラッと私の教室を開けると、





「「キャーーー!!!島田先輩ーーー!」」



「お、おい!島田!お前こんなとこでなにしてるんだ!」




女の子達と先生の大合唱。






「これ運ぶの、莉奈ちゃんだけだったみたいなんで、手伝ってきただけですけど、女の子1人にこんな重いもの持たせるなんて、先生もだめですね〜」




今度はニコーっと張り付いたような笑顔。




優希先輩って同じように見えても、笑顔に感情こもってるよね。




「お、おう、ごめんな、皐月。じゃあ島田の担任には、後から俺が説明しとくから、島田は早く行け」




「は〜い」




そう言って、出て行く優希先輩の後ろ姿を目で追うと、くるっと振り返って、小さく手を振ってくれた。







あー、私、今日死ぬんだろうか。