佐藤ゆめ吉は小学3年で田舎の里山に引っ越してきた。ゆめ吉は家に引きこもって縁側で携帯ゲームをして遊んでいた。
「ゆめ吉、ゲームばかりしてないで外で遊んできなさい」
お母さんが注意しても一向に止めようしない。
「ゆめ吉!!」
お母さんはついに怒っこってゆめ吉の携帯ゲームを取り上げてスイッチを切ってしまった。
「あっ!まだセーブしていないのに」
ゆめ吉はいつもの癇癪が出てきて、地団駄をふむと大きく泣きわめいた。
お母さんはこれはいつもの事なので狼狽えたりしない。
「ゆめちゃん、お花畑を思い出して10数えて」お母さんは優しい微笑みを浮かべてゆめ吉の顔に背を合わせた。
「そんな事したってイライラは止まらないよ!お母さんの馬鹿!」
ゆめ吉はそういうと側にあったリモコンをお母さんの顔めがけて投げた。
「あっ」
お母さんは反射的に顔をそむけたが、おでこにリモコンが当たってたらりと血が流れた。
家の中は蜂の巣をつついたように大騒ぎとなった。
おばあちゃんは救急箱を探して家の中をかけまわるわお父さんはゆめ吉を怒鳴るわで大騒ぎとなった。
ゆめ吉はわんわん声をはりあげて泣きわめき、ついには外に出て行ってしまった。
「なんで、なんで僕ばっかり」
ゆめ吉は涙をぽろぽろ流しながら田んぼのあぜみちをあてもなく歩いて行くのであった。
空の雲行きが怪しくなってきた。
黒い雲がこちらにむかってくる、と思った途端大雨が降り注ぐ。
ゆめ吉は気づいたら木々が密集している、山にいた。
(ここどこ?)迷子になってしまった。
(やっぱり、僕はついていないや)そう言ってまたも泣きじゃくるのだった。
その時、雷がゆめ吉の目の前に落ちた。
ゆめ吉は驚いてその場に腰をぬかしてしまった。しゅうしゅうと白い煙が辺りを包み込む。
そこに人物と思われる、シルエットが浮かび上がってきた。
(あぁ助かった)ゆめ吉はそう思ったがその人物を見てビックリ仰天した。
(なっなんだ?この人。昔の侍の格好をしているぞ)まさにそうであった。
映画で見たような戦国時代の鎧兜を身に纏った中年のおじさんがそこにはいた。
しかし、そのおじさんはなんと、うっすらと透けていたのだ。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「びっくりした!」侍のおじさんはでっぷりした体を転がして地面をジタバタした。
その姿がなんとも滑稽で、ゆめ吉は思わず微笑んでいた。
「き、急に大声を発するではないビックリするであろう!」
「おじさん何者?」
「おっ、儂の姿が見えると分かる。なかなか見所があるではないか。わっぱ!」
ゆめ吉はちょっとムッとして言った。
「僕はわっぱでじゃない。佐藤ゆめ吉だ」
侍のおじさんがふんと鼻をならした。
「お主こそ儂をおじさんと呼んだではないか儂の名は嘉助じゃ!」
「嘉助?名字は?」
ゆめ吉は不思議に思い問いただした。
「名字などない!儂は本当の侍じゃないからの」
「え?そうなの?コスプレ?」
「コスプレ?あぁ。最近の街の奴らがやっている奇抜な格好の事じゃな。ちがうちがう。儂は農民じゃ。しかし、戦の時には我が主、富樫政親様の兵として出陣するのじゃ。しかしあるとき卑怯にも後ろから攻撃されて死んでしもうたわ。それからというもの、儂はその殺した奴の正体をさがしているのだ」
「えっ!じゃあ嘉助さんはやっぱりお化け?」
嘉助はにやぁと不気味に笑って頷いた。
「どうじゃ?怖いであろう?」
ゆめ吉はこの嘉助というお化けが怖くなかった、むしろ滑稽で愛らしかったので友達になりたいと思ったのであった。