『京の竹林は男を惑わす…って知ってるか?』


『あん?何だそりゃ?』


『京都の竹はイイ女でできてんのか?』




酒を囲んだ3人の野武士たちがくだらない話で盛り上がっている。


そんな輩を、少し離れた席から見つめている矢加部は、溜め息をつきながら酒をあおる。


外は祭りばやしで賑やかなのに、この居酒屋ときたら、客は自分と彼らだけで随分と物寂しい様子だ。


しかし、やはり京都の酒は実に美味であり、ここまでの長旅で疲れた身体に心地好く染み入ってゆく。




『いらっしゃい』


店主のしわがれた声に何気に顔を上げた矢加部は、思わず目を見開いた。


女だ。
一人の女が店に入って来た。


しかも、かなりの別嬪だ。
紫の浴衣に茜色の羽織を纏った艶やかなその姿は、天女と言っても差し支えのない程に美しかった。


『おいちゃん、団子ちょーだい』


明らかにこの古ぼけた居酒屋には不釣り合いなその天女は、会話を止めて一斉に視線を向けている男たちを気にする様子もなく、店主へと声をかけながら空いている席へと腰を降ろした。