「マッタク、優のヤツは、いったい誰に似やがったんだ?」

俺は、息子の優と、そのガールフレンドの安那ちゃんのやりとりを見ながら独り言を言った。

「そんなの俊介に決まってるじゃない。優ったら誰が見たって、まるでアナタの縮小版そのものよ」

そんなことを言いながら、妻の朋美が入れたてのモカを持ってきてくれた。

「そうか?俺ならもう少し女心を掴むのが上手いと思うんだがな」

俺の言葉に彼女はおかしそうに優しい笑みを浮かべた。

「そんなことないわよ。どれだけ私が苦労してきたことか、アナタわかってるの?」

俺は朋美の入れてくれたモカを飲みながら答えた。

「そうか、そんなに苦労してたのか?でも、そんな苦労も意外とさ、悪くなかったんじゃねぇか?」

彼女は柔らかい笑顔を浮かべたままため息をひとつついて言った。

「そうね、悪くなかったかもね」

ありがとよ、ニーナ、いや、朋美。
俺も、オマエに出会えたこと、そして、こうして同じ時を一緒にすごしていることは、悪くねぇよ。
いや、悪くねぇっていうより、この上なく幸せだぜ。

「なぁ朋美、優が俺に似ちまってんのは仕方ねぇとしてさ、来月産まれてくる妹ちゃんの方は、オマエに似た美人になるといいな」

「うん、大丈夫。絶対、私に似た美人になるわよ」

彼女はそう言って、新しい生命を宿している彼女のお腹を優しく撫でた。

「ほう、大した自信じゃねぇか。それは女の直感ってやつかな?まぁ、性格はオマエと違って、女らしく奥ゆかしく育ってもらいたいものだがな」

「あら、俊介、そんなこと言うの?ふぅ~ん、じゃあ、今夜からアナタだけご飯抜きね」

彼女のそんな冗談に俺は戯けながら答えた。
そして、息子の優にきっちり仕込んだ必殺の平謝りをかました。

「うっ、ごめんなさい、朋美さん、いや朋美様!それは勘弁してください!」

そして俺は朋美の膨らんだお腹にそっと手をあてて、来月産まれてくる娘に向けて言った。

「なぁ、オマエからもママに言ってやってくれないか?パパをそんなにイジメないでって」




~了~