「えぇ、大変恥ずかしいことですが、娘のお散歩の相手をしていただけないかと」

あぁ?それだけで1ヶ月で12万たぁ、金持ちの考えることはよくわからねぇや。

「ところで、三枝さん、その娘さんは?」

「あら?富井さん、先ほどお会いになられませんでしたか?」

ん?そんな娘にゃ会ってないけど?
その時、突然、三枝夫人は大声で娘の名前を呼び始めた。

「エリザベートちゃん、エリザベートちゃ~ん!」

んが?エリザベートだぁ?
どういう名前だよ?

そう、思ったその瞬間、素早い身軽な白黒の獣が居間に飛び込んできて、三枝夫人の横に座り、俺に向かい歯を剥いて吠え始めた。

「ダメでしょ!エリザベートちゃん。明日からアナタのお散歩をしてくれる富井さんよ。静かになさいっ!」

エリザベートちゃんは、三枝夫人の言うことをまるで聞かず、俺に向かいずっと吠え続けた。

「ごめんなさいね、富井さん、少しワガママに育てちゃったようで、私以外になかなか懐いてくれないのよ」


ハハハハ………
俺は力なく笑うことしかできなかった。

やっとわかったぜ……
ニーナのヤツが出がけに見せた変な笑顔の理由が。
あのアマ、ワザと犬だってこと黙ってやがったなっ!