Mr.ハードボイルド



「そりゃあ、オマエ、そんなんは、俺がどうこう言えるもんでも、ないだろ」

携帯の向こうでしばしの沈黙が続く。

『………そうだよね』

「あぁ、そうさ、そんなんはオマエが判断すればいい」

『…………』

ニーナの言葉はなにも聞こえない。
俺はその沈黙に耐えきれなくなった。

「まぁ、人生なにごとも経験だから、お見合いってのもイイ経験になるんじゃねぇか?」

沈黙から逃れるために、俺が口に出したのは、そんな軽口だった。

『…………わかったわ』

その言葉を残して、ニーナは電話を切った。

我ながら、バカなこと言っちまったかなぁ。

そう思った瞬間、俺の頬に電撃が走った。
状況を把握しようと視線を戻すと、そこには右手を上げたままの祐希ちゃんが立っていた。
彼女は目に涙を浮かべていた。
俺は祐希ちゃんにビンタの一撃を食らっていたようだった。

「どうして?」

みるみる祐希ちゃんの瞳から涙がこぼれ落ちた。

「どうして、富井さん、そんな冷たいこと………ニーナさんに言えるの?」

「そりゃあ、それは彼女の問題で、俺がなんも言えることじゃねぇから、それに、俺にそんな権利ねぇし」

そんな俺の言葉を遮るように、彼女は続けた。

「きっと、ニーナさんはね、富井さんに、止めてもらいたくって電話してきたのよ!それなのに、そんな冷たい言葉、なんなの!この鈍感バカ男!」

祐希ちゃんは大きな瞳からボロボロ涙をこぼした。