Mr.ハードボイルド



「祐希さん、武蔵くんが入院て、なんか病気でも?」

しばらく考えたあと、彼女は俺に言った。

「病気ってわけではないのですが、その、つまり、去勢の手術をしたんです」

あっ、そうなんだ、武蔵くん、とっちゃったんだ、タマタマ………

同じ男として、俺はなんとも言えぬ同情を武蔵くんに感じた。

「繁殖目的ではない場合、去勢手術をしたほうが病気になりにくく、長生きできるそうです。かわいそうな気もしましたが、武蔵には長生きしてもらいたいですし、私がそう決断しました。もちろん、私にもわかってます、それは人間側のエゴだってことは」

彼女は少しだけ言い訳がましく言った。

「祐希さん、誰もアナタを責めたりなんてしませんよ。武蔵くんにとっても、アナタと一緒にいられる時間が長くなるわけですから、嬉しいことだと思いますよ」

優しい笑顔を、俺は彼女に向けた。

ふっ、キマッタな。

彼女は嬉しそうに、美しい澄んだ瞳で俺を見つめた。

ふっ、完璧だな。

内心、俺は小躍りしていた。
エリザベート、君の武蔵への恋は叶わなくなってしまったかもしれないな。
なんつっても、武蔵くんはオカマちゃんになっちゃったからね。
でもさ、オマエの無念は俺が晴らしてやるさぁ!
だから、俺と祐希ちゃんとの仲がうまくいくことを祈ってくれよな!