汚れた恋心

「いつ来たの?」
莉子が問うと、彼は微笑んで
「さっき来ました」と返してくれた。

自身らが所属する美術部員はとても人数が少ない。五人くらいだろうか。
そして、他の部活と掛け持ちしている生徒も居るため、毎日美術室に通っているのは自分ぐらいだ。

私も絵の具を出そうとした時に
「莉子先輩。」
と呼ばれて振り返る。
いつもは名字で呼ぶものだから驚いた。
「振られたんですか?」
図星だったのでびくり、
と反応してしまう。
「泣き跡、残ってます。」
と隆弘は苦笑して言う。
「うん、変なとこ見せちゃったね…」
苦笑いして返そうと思った。
その時だった。

腕をぐいっ、と引っ張られて
抱きしめられる。
「え…?なに、なに…
慰めのつもりならいいよ…」
年下でも遥かに大きい隆弘からは
ドキドキと激しい鼓動が聞こえて来た。
「慰めてるつもりはないです。
今からでもいいんです、俺と…」
莉子はこれ以上聞きたくなかった。
なんて言うかなんて簡単に想像がついた。