それって...

いつもは情景反射で答える先輩の言葉が、

今日は心まで浸透して、答えは決まっているのになかなか喉から出てこなかった。

「ダメなら、手振りほどいて、戻って。」

ダメなんかじゃない、先輩がいい。

そう言いたいのに、言葉が出なくて、代わりにぎゅっと手を握り返す。

その途端、先輩にその手をさらにぐいっと引かれ、そのまま私の体が先輩に預けられた。

「奈乃ちゃん、好きだ。俺と、付き合って。」

先輩が、言葉にしてくれた。

私も、ちゃんと返さなきゃ。

そう思うのに、喉には何かが突っかかっていて、なかなか声になってくれない。

握られたままの左手に力を込めて、

先輩の肩に埋められた頭を縦に振って、

それから、やっと絞り出したような声で

「はい...」

そう言った。

そういった瞬間に涙が次から次へと流れ出して、さっきまで喉に突っかかっていたのはこれなんだとやっと気づいた。