そんな凛に、一瞬面食らった顔をした須藤課長だったが、でも直ぐに下を向き、フッと笑う。

…表の須藤課長は、誰からも好かれる良い人だが、裏の顔は、よほど仲の良い人しか知らない。知られたところで、嫌われ離れて行くヤツばかりなのに、凛は、違う感じがして、ちょっと嬉しかった。

…。

今日の仕事は、なんの邪魔もなく、集中する凛。営業事務をこなす社員は、一課では、先輩一人と、凛だけだ。そのせいもあって、毎日の事務処理はハンパない。

それでも、嫌な顔一つしないで、凛は仕事を丁寧にこなしていく。その丁寧さに、一課で、凛はとても評判も良く、なくてはならない存在になっていた。

「佐伯さん、この書類まとめておいて」
「はい、何時までに仕上げれば良いですか?」

「できれば、今日の3時位までに欲しいんだけど」
「わかりました」

笑顔で言う凛に相手も笑顔で返す。

「…そんなに愛想ばっかり振りまいて、何でも引き受けてたら、自分の首締めるだけだぞ」

訂正書類を凛のデスクに置いた須藤課長が、小声で言う。

「…愛想振りまいてるつもりはありません」

そんなつもりもない凛は、すぐに反論した。

「…それ、明日までで良いから訂正箇所直して持ってきてください」

凛の反論に、特に言い返すこともなく、そう言うと、自分のデスクに戻ってしまった。

(上司の秘密なんて、知るもんじゃない。知らなかったら、今まで通りだったのに)

と、凛は溜息をついた。