お兄さんの顔は無だ。何も感じ取れない。
「…私の質問に答える気、ない?」
「…お前の聞きたいことはなんだ」
「あは、お兄さん裏切るんだ」
「お前の質問次第だ。すべて吐く気はない」
「苦痛と絶望の中に囚われるとしても?」
「俺も兄だ。弟を売る気はないね」
まっすぐな言葉。あぁ、こんな人なら道が違えば全うに生きられたはずなのに。
袋にいれたままの薬をお兄さんの前で揺らす。
「…お兄さんの持ってたこの薬を作った人、知ってる?」
「は?薬?…研究員のことか」
「そう。この薬を作った人は、12年前に華月に潰された組の研究員?」
お兄さんは思案するように視線を迷わせる。そして、私に視線を返す。
「違う。俺の組の奴に、朱色の悪魔に関わった奴はいない」
「そう。…お兄さんも知ってるんだね。悪魔のこと」
「バカにしてんのか。正統派で1位の実力を持っていた組が隠してきた核兵器だろうが。あの事件を知らねぇ裏の奴はいない」
12年前、華月組によって壊滅した組がある。
その組は、正統派で有名、裏の世界ではトップに君臨していた。
だけど、その輝かしい歴史とは裏腹に、人体実験を繰り返し、ついには実験のための生命まで生み出した。
実験に必要なモルモットを増やすために、被検体同士で交配させた、実験のためだけに生まれた生命を。
「あはは。核兵器ではないけどねぇ」
「お前、そんな奴を探してどうするつもりだ」
「…復讐。かな」
「は?華月の構成員が何を」
「…お兄さんが知る必要はないよ。後話したいことはさっきの人に言ってね。私じゃ、言われても理解できないから」
お兄さんに手を振って、部屋を出る。


