「魁、しょうがなかったんだ。朱音はそれを承知で…」

「分かってる。んなこと、分かってんだよ…」

でも、でも…。だからって納得できない。

朱音が体売ってまで、命張ってまで、やらなきゃいけない訳が…。

朱音に触れようとした手はガラスに阻まれて届かない。

「朱音…」

起きろよ。なに寝てんだ。

早く起きて、学校行かなきゃ、また転校するはめになるぞ。なぁ、朱音…。

「起きてくれ…」

全部忘れさせてやる。あんなおっさんのことなんか、全部、全部忘れて、俺しか見れないくらい、夢中にさせるから。

だから、だから…。

「魁、帰りな。朱音が目を覚ましたら、すぐに連絡するから」

「…」

嫌だ。でも、そんなこと、言って聞いてくれないってことは重々分かってる。

「魁様、帰りましょう」

有無を言わせない言葉。いつもはビクビクしてるくせに、なんだよ。くそ…。

「魁、おやすみ」

「…」

兄さんの言葉に背を向ける。

断ち切るように歩みを進め、研究所を出る。