王子様に連れられたお城には、王様と王妃様が居た。

「やあ。君が希和子ちゃんかい?はじめまして。」
王様にしか見えない、威厳たっぷりの男性はそう言って私に手を差し出した。

……握手?
日本でも握手って、一般的なあいさつなのだろうか。
わからないけれど、目上のかたに従うべきだろうと、私はおずおずと手を出した。

男性は苦手だし、触れたくないはずなのに、恐怖心を感じなかった。
いや、むしろ、従わないことに恐怖を覚えたのもかもしれない。
されるがままに手を握り、離れてから、深々とお辞儀をした。

「希和子です。今日は、お招き、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
そうご挨拶すると、王様は目を細めて私を見た。

想像してた以上に優しい瞳に、私は面食らった。
似てる。
義人氏に、やっぱり、似てる。

「礼儀正しいお嬢さんや。でも緊張しなくていいから。これからは、ここは君の家で、私は君の父親になりたいと思ってる。仲良くしてくれるかい?」

「あまり先走って、希和子ちゃんから逃げ道を奪わんといたげてください。ねえ?希和子ちゃん。こんにちは。ようこそ。ゆっくりくつろいでってね。」
王様よりも、さらに優しく好意的に王妃様、つまり、義人氏のお母さんがそうおっしゃった。

「ありがとうございます。」
お辞儀をしてお礼を言うと、それだけで、2人は満足そうにうなずきあっていた。


「ご両親とも、お優しいんですね。」
お庭を案内してくれる義人氏にそう言った。

「……まあ?母は誰に対しても優しいけどな、父は微妙。俺には優しくないで。むしろ意地悪。でも、希和子ちゃんには優しくて良かった。」

義人氏がお父さんにコンプレックスを抱いてるのはわかるけど、でも、お父さんからはそんなの感じなかったけどな。
もっと、懐(ふところ)が大きいように感じた。

まあ、義人氏も子供ってことね。
ふふ。

ぱっと、義人氏が顔を輝かせて私の顔を覗き込んだ。
え?
なに?

びっくりしてると、義人氏が言った。
「今、笑った?なんか、楽しいことあった?」

なるほど。
私、無意識に笑ったんだ。
でもまさか、義人氏が子供っぽくておかしいとは言えないし。

「野鳥がいました。」
とだけ言った。

「野鳥ね。いっぱい来るわ。渡り鳥も。鶴とか。タヌキなんかも見たことあるで。」
義人氏がそう教えてくれた。

「お庭に来るんですか?鶴が?」
驚いてそう聞くと、義人氏は笑った。

「ああ。バーベキューとかした残りもんを放置しといたら、鶴が来て。びっくりしたわ。母がみかんで餌付けしてるからメジロとかもたくさん来るし。いろんな野鳥が見られるで。」

カワセミも来るかしら。
色濃い綺麗な鳥以外は特別に好きだと思ったことはないけれど、とても楽しみに思えた。