夢が醒めなくて

いつまでも黙ってる俺に、れいが続けた。
「……そんなに信頼されてないのかな、って淋しく感じたりもしたけど」
「いや。それは逆。れいの人生を、狂わせたくないし、負担かけたくないし。」

慌ててそう言ったけど、れいは
「ありがと。」
と、受け流した。

「まあ、義人らしい気遣いよね。でもそれって、セフレも彼女も条件同じだし、気持ちの有無とは関係ないじゃない?それで、別の角度から考えてみたの。……てか、真逆からのアプローチかな、うん。」

れいはそう言ってから、新しい煙草に火を付けた。
紫の煙をくゆらして、アンニュイな表情でれいは続けた。

「私が、姿を消したらどうする?」

とっさに答えられなかった。
れいが、何を言いたいのか、考えるまでもない。

俺がかつて本気で愛した女性は……俺の子供をみごもって俺から逃げた夏子さんは、れいの恩師だった。
れいは、俺と夏子さんの関係を知らないと思っていたが、知っていたのか。

「……びっくりする。心配する。劇団関係者とか他のジェンヌに事情を知ってるヒトがいいひんか、聞き合わす。」
そう言うと、れいは苦笑した。

「そうでしょうね。たぶん、義人は心配してくれるとは思う。……でも、そこまで。自分の足で探し回ってはくれないでしょ。義人にとって、複数の彼女の1人ってそういう存在。セフレに至っては消えても放置でしょ。……大瀬戸先生みたいにしつこく探して歩いて回っても取り戻したいヒト、また、見つかるといいわね。」

「知ってたんや。」

「……うん。つきあい始めて、すぐ気づいた。でもバツイチのおばさんに負けるはずないって。すぐに奪い取れると思ってた。失踪したって聞いて、これで義人を独占できるって思ったけど……所詮、私は複数の彼女のうちの1人でしかなかったわね。」

否定するべきか?
いや、実際のところ、それ以上でも以下でもない。
だから、れいが他の男を物色しても、何も感じなかったのだろう。

俺が黙ってると、れいは続けて言った。
「たとえ私が怒って帰っても、義人は追いかけもしないでしょ?それがわかってるから、いつも、意地でも最後まで一緒にいるの。紳士的にうちまで送ってくれたら、少しは私も大事にしてもらってるように錯覚できるし。……だから、これまで通りでいて。私が退団するまでは、舞台を観に来て、差し入れもプレゼントもちょうだい。誘えば逢いに来て。抱いて。」

「……ああ。れいが、要らんって言うまでは、つきあうわ。」

俺がそう答えると、れいは悲しい顔をした。