夢が醒めなくて

……いや、希和子ちゃんがしっかりした賢い子だってことは、よく知ってるよ。
でも、だからこそ、こんな話を聞かせたくないんだけど。

「ばつが悪い?自業自得。ね~?」
正美嬢は希和子ちゃんに同意を求めた。

希和子ちゃんは、なぜかうなずいて、
「ね~。」
と同調した。

どうやら、正美嬢は希和子ちゃんを手なずけることに既に成功したらしい。
ちょっとくやしい。

「希和子ちゃん、ちょっとだけ上向いてくれる。うん。そう。そのまま。」
気づいたら、正美嬢は希和子ちゃんをモデルにせっせとスケッチしているようだ。

「なあ?さっきから何してんの?」
正美嬢の手元を覗き込む。

げっ。
小さなノートは正美嬢の同人誌のネタ帳なのだろうか。
どう見ても俺に似た男が、これまたどう見ても希和子ちゃんにしか見えない少女をバックハグしていた。

「うん。竹原くん、BL向きの素材やと思ってたのに、さっきの2人にめちゃめちゃ萌えたんよ。幼い姫君に仕える騎士のイメージ?忘れんうちにメモっておこうと思って。まず、竹原くんが片膝ついて、恭しく希和子ちゃんの手をとって、甲に口づけて、」

「こら!ねつ造するなよ。してへんしてへん。単に、希和子ちゃんとなるべく同じ目線で話したいだけや。」
気恥ずかしくて、声がうわずる。

「希和子ちゃんも?竹原くんの目を見たくてしゃがんだの?」
正美嬢にそう尋ねられて、希和子ちゃんはうなずいた。
そして目を伏せて言った。
「……うれしかったから。」

うわっ!
希和子ちゃんが、かわいすぎて、俺は……珍しくときめいた。

「かわいいっ!」
そう言って正美嬢が希和子ちゃんを抱きしめた。
……俺が我慢してるのに……うらやましい……

希和子ちゃんはびっくりしてたけど、されるがままになっていた。
そう悪い気はしてないようなので、引きはがすのは堪えた。

「で、竹原くんが立ち上がって、希和子ちゃんに手を差し伸べて、立ち上がらせた理由は?スカートの中、見えてた?」
正美嬢にそう聞かれて、希和子ちゃんの頬がぶわっと赤くなり、涙目で俺を睨んだ。

「見えない見えない!見えるほど短くないやん!……むしろスカートの裾が汚れたらかわいそうだと思ったんやってば。」

「あ~、そういうこと。ふんふん。」
正美嬢は希和子ちゃんを手放して、またメモった。
希和子ちゃんはホッとしたらしいけど、心なしか俺から少し離れた。

「それで、だめ押しの膝折りね。も~~~ね~~~、竹原くんの真髄を見たね。感動した。ネタの宝庫だわ。」
正美嬢は興奮してるらしく頬を紅潮させてそう言った。

「あ!でも、さっきも言ったけど、恋愛感情はなしね!観察したいだけやから。」
「……はいはい。」

もう好きにしてくれ。

よくわからないけど、正美嬢を見る希和子ちゃんが何となく楽しそうなので、まあ、いいよ、もう。