夢が醒めなくて

花実嬢は、泣きそうな顔で訴えた。
「……あの時も、そんな顔してた。」

あの時、ね。
花実嬢との関係を解消したのは、そうだ、希和子ちゃんと出逢った日だったっけ。

「あの時は、怒ってないって言いながら、別れるって、言った。」

そうだっけ。
まあ、怒るって言うよりも、呆れてたのかも。
もう限界だなって思ってたよ、うん。

「私はセフレにすらしてもらえないのに、どうして、堀さんなん?」
「ほら、またそんな不用意なことを、こんなとこで言うから……そういうとこ、気をつけたほうがいいと思うで?花実ちゃんは。」

そう窘めてから、堀さんとはそういう関係じゃないと言おうとした。
でも、背後に変な空気を感じて……何となく振り返った。

希和子ちゃんがいた。

……最悪だ。
希和子ちゃんは、完全に表情を消して立っていた。

「え?修羅場?マジで?」
プール通いで真っ黒に日焼けした啓也くんが、そう聞いた。

「いや。完全に誤解。……おかえり。」
さすがに作った笑顔はぎこちなかったようだ。

「ふぅん?ほな誤解とけるまで、ごゆっくり。希和ちゃん、行こう。」
啓也くんはそう言って、希和子ちゃんを促した。
けど、希和子ちゃんは歩き出さなかった。

何か言いたいことがあるのだろう。
こんなとこ見られて、誤解されても仕方ないと思う。
……でも、黙ってスルーされるより、言葉にしてほしい。
とにかく話せば、弁解できるし、懺悔も謝罪もできるから。

俺は希和子ちゃんの前に片膝をついて、うつむきがちな希和子ちゃんを見上げた。

「ちょ、っと、竹原くん?何やってるの?私が話してるのに!」
花実嬢が怒ってる。
啓也くんも、呆れてるようだ。

でも、今の俺にはどうでもよかった。
外野は黙ってろ。
そんな気分。

「希和子ちゃん。変なとこ見せて、ごめん。彼女と多少行き違いがあってこじれて見えるかもしれんけど、誤解やから。説明させてくれる?」
希和子ちゃんの瞳がじっと俺を見てる。
言葉も表情もなくても、その瞳は虚ろじゃなかった。

大丈夫だ。
ちょっとホッとした。
何となく、肩の力が抜けた。
そして、どちらからともなく頬がゆるんだ。

「いいです。だいたいわかりますから。……義人さんが悪いです。諦めのつかない振り方なんか、優しさじゃないです。」

希和子ちゃんはそう言って、俺の前にしゃがみこんだ。
目の高さを合わせて話そうとしてくれてるのが伝わってきた。

呆れられてない。

俺は普通に立ち上がり、希和子ちゃんに手をさしのべた。

希和子ちゃんは迷わず俺に手を預けてくれた。

引き上げて、そっと立たせてあげると、今度は俺が膝を少し曲げて希和子ちゃんの目を覗き込んだ。