夢が醒めなくて

東へと車を走らせて、施設に到着したのは14時50分。
15時には希和子ちゃんが帰って来るだろう。
車で待ってようかな~……と携帯をいじってると、窓ガラスをコツコツと叩かれた。

見ると、浦川花実嬢がひらひらと手を振っていた。
「久しぶり。元気だった?」
窓を下ろしながらそう聞くと、花実嬢は殊勝げにうなずいた。

「うん。……何か、ごめんね。迷惑かけたらしいね。堀さんに事情聴取されて、びっくりしたわ。」
「事情聴取?何?それ。」
「一方からの情報だけじゃ偏るから、って。堀さんって、頭は良くても地味で暗い子やと思ってたけど、相当、変ね。竹原くんの趣味って、ほんとよくわかんない。」

……謝ったその口で毒を混ぜてきた花実嬢に苦笑した。

「何か、イロイロ行き違いがあるみたいやな。……今、いい?お茶飲みながら話そうか?」
花実嬢はチラッと振り返ってから、意を決したようにうなずいた。

「あ~、そか。ボランティアで来てるんやったら、個人行動はあかんかったな。終わってからでもいいで?花実ちゃんまでやり玉に上がったらかわいそうやしな。」
別に嫌味で言ったわけでもないんだけど、花実嬢は傷ついたらしい。
黙ってうつむいてしまった。

……めんどくさいな。

「ほな、終わったら連絡ちょうだい。合流しよう。後で。」
そう言って、俺も車から降りた。

「……何で、いつも、そうなん?ちょっとは、感情、見せてよ。私、ずっと独り相撲やねんけど。」
花実嬢は俺の前に回って、そう睨んだ。

「別に感情、隠してるつもりないけど?」
そう答えつつも、花実嬢の苛立ちは理解できた。

けっこうな頻度で言われてきた言葉だ。
いつも笑ってる、怒ってくれない、感情が見えない、本気で愛されてないからつらい……などなど。
否定はしない。
めったなことでは怒らないように自制してきた成果なのだが、意外と不評らしい。

「私とは話もしたくない、ってこと?」
花実嬢に肩をすくめて見せて、歩き出した。
今は何を言っても無駄だろう。

「ちょっと!竹原くんっ!……何で、あの子なん!?あんな変人より」
「花実ちゃん。」

花実嬢の言葉を遮って、俺は続けた。
「わからんか?今、怒ってるで。」

声を荒げたり、手を上げなくても、怒りの感情は抱く。
表現する必要を感じないだけだ。

でも、この場合は、伝えるべきなのだろう。