夢が醒めなくて

過ぎ去ってみれば笑い話にしかならないけど、その時はマジで焦ったし悩んだ。
大学は離れてしまったけど、今も大切な親友の1人だ。

「うーん。難しいこと言うわね。私、和物苦手なのに。イメージわかへんのよね。どんなひと?有名人?」
「まあ。業界では有名かな。一般的には全く知名度ないやろけど。あー、秋の舞台、見に行くか?」
「え!いいの!?」
「ああ。創作のネタになるんちゃうか?」

本当は、女形の時の彩乃の写真を見せるだけで充分かもしれない。
でも、どうせなら、渾身の舞台を一人でも多くのヒトに観てほしい。
後援者として、俺は普及活動のつもりだった。

でも正美嬢には、カミングアウトに聞こえたらしい。

「うれしいわ!ロリコンは論外やけど、ノーマル女好きより、ストレートなのに男によろめく危うい男のほうが萌える!」
……何となくボタンを掛け違えてる気がするぞ。

ま、いいか。



自称ヲタクな腐女子の堀正美嬢は、知らなかったけれど、実はめっちゃ優秀な子だった。
まだ3回生なのに既に難関中の難関の司法試験予備試験に合格しているらしく、来年は司法試験にチャレンジするそうだ。

おもしろい子だとは思ったけど、ここまで興味深い子だったのか。
むしろ、彼女と知り合えたことはラッキーだったかもしれない。

彼女がどういう方法で牽制してくれたのかは謎だが、中傷はぴたりと止まったそうだ。
俺はお詫びと様子見に、ほぼ毎日、希和子ちゃんに逢いに行った。


9月になり、希和子ちゃんの夏休みが終わった。
希和子ちゃんは学校は好きらしいので、これでちょっと一息つけるかな。

大切なお友達が東京へ行ってしまって登下校が淋しいと言っていたけれど、俺が施設と小学校を送り迎えするのは断られた。
まあ、そりゃそうだよな。

「ね~。義人。希和子ちゃんの好きな色、聞いてきて。お部屋のリフォームもしたいし。」
昼過ぎに母親が俺にそう言った。
希和子ちゃんを迎える準備を、着々と進めているらしい。

「……お父さんの、OK出てるん?」
俺のほうには何も連絡ないんだけど。

母親は首を傾げた。
「たぶん?まあでも、反対はしてないみたいよ。リフォームのことも、お父さんに伝えたけど何も言われなかったし。」

ふーん?
何を考えてるんだろう。
ま、反対されてないならいいや。

「じゃあ、聞いてくる。でも、あんまり凝り過ぎんときや。あ。部屋に書架作ってあげて。」
「そうね。読書家なのよね。……でも本棚って可愛くないのよね~。」
「戸ぉつけて隠したらいいやん。クローゼットみたいに。」

そうアドバイスしながらも、母親の少女趣味を希和子ちゃんが嫌いじゃないといいけど、と心配になった。