夢が醒めなくて

再びグラスを手渡して正美嬢が落ち着くのを待つ。
「あー、びっくりした。今はしてない。コミケの時だけ。」
……コミケの時はしてるのか。

「どんな格好?スタイルいいし、似合うやろうね。」
そう言ったら、正美嬢は頬を赤く染めた。
「もう。からかわんといてよ。興味ないくせに。」

「え?ないことないで。むしろ行ったことないから興味津々。あ!今度、連れてってーな。行ってみたい。」
社交辞令じゃなく、本気でそう言った。

実際、ヲタクと称するヒト達がうごめくサブカルチャーの市場は無視し得ない。

正美嬢は、少し声をひそめた。
「なあ?わかってる?腐やで?BLやで?……私といたら、勝手に妄想されるで?」
「別に妄想ぐらいかまへんやん。実際に男に押し倒されるのは趣味じゃないけど。そういう発展場じゃないんやろ?」
俺はどうやら迂闊なことを言ったらしい。

正美嬢の瞳がキラキラと輝き、興奮気味に食いつかれた。
「いいの!?モデルにしたい!」

……これは、マジだな。

「えーと。正美ちゃん、コミケに買いに行くんじゃなくて、売ってるの?同人誌を書いて?あー、そうか。コスプレして販売するのか。……楽しそうやな。」
思った以上にディープじゃないか。

正美嬢は、乙女のように両手を胸の前で組んで、コクコクと首をたてに振った。
「楽しいでー!めっちゃ楽しい!やーん、うれしい!竹原くんもコスプレするなら、衣装、作ったげる!」

同人誌だけじゃなく、衣装まで作るのか。
すごいな。
正直、驚いたけど、今さら後には引けない気がした。

「まあ、そのあたりは任せるわ。ほな、日程決まったら教えてな。楽しみにしてるわ。」
笑顔でそう言ったら、それまで興奮してた正美嬢が真面目な顔になった。

「……なるほど。モテるわけやわ、竹原くん。顔だけじゃないんやね。納得した。イイヒトやん。」
「そうか?下品な成金のドラ息子って言われてるんちゃうん?」
皮肉っぽくそう言ったら、正美嬢は笑った。

俺も釣られて、笑った。


「BLって二次創作?漫画とかアニメのキャラを絡ませるん?それとも、オリジナルキャラ?」
正美嬢を送る帰り道も、ヲタ話の質問を重ねた。

「どっちもあるで。でも、竹原くんをモデルにするのはもちろんオリジナル。設定と、絡みたい相手役、希望ある?」
上機嫌で正美嬢は聞いてきた。

希望、ねえ。

「ないない。……あ。あった。あのさ、日本舞踊か歌舞伎の女形がいい。俺、マジで女形の舞踊家を女性と勘違いして一目惚れしたことあるねん。」

言ってて笑けてきた。