夢が醒めなくて

「あー、義人さん。お見送りに来てくれはったの?」
美幸ちゃんがそう言いながらやってきた。

……やー、どっちか言うと、美幸ちゃんを見送る希和子ちゃを慰めに来たんだけど……

「美幸ちゃん。あれ?啓也くんは?」
一緒にいたんじゃなかったのか?

美幸ちゃんは、にっこりと笑ってみせた。
「もうお別れは済んだし、いいねん。」

目の端に、今にも泣き出しそうな希和子ちゃんが映った。
「希和ちゃん。ほな、行くね。」

美幸ちゃんは、希和子ちゃんにそう言ってから、また俺のほうを向いた。
「義人さん。希和ちゃんのこと、お願いします。」

堪えきれず希和子ちゃんが泣き出した。
そばに行って、そっと手を重ねたけど、希和子ちゃんは逃げなかった。
むしろ、きゅーっと力をいれて俺の手を握り締めた。

「美幸ちゃんの代わりにはなれへんかもしれんけど、全力で希和子ちゃんを守るから。安心して、がんばってきぃ。応援してるから。」
希和子ちゃんの手を握ったまま、2人にそう誓った。


「行っちゃった……」
希和子ちゃんはもう泣いてなかった。
美女だけど色気過多なママに手を引かれた美幸ちゃんが見えなくなるまで、俺たちは施設の門のところに立ち尽くしていた。
すぐそばの木の陰に、啓也くんが隠れているのが見えた。

「ところで、照美ちゃんは?姿が見えないけど。」
そう尋ねると、希和子ちゃんは口をつぐんでうつむいてしまった。

「拗ねてる。自分だけ置いてけぼりの気分みたいやわ。」
啓也くんが赤くなった目をシパシパさせながら、そう言った。

あー。
そうか、そうだよな。
突然2人いなくなったら、淋しいか。
納得してる俺の手を、希和子ちゃんが力を込めて握ってきた。

何だ?
驚いて希和子ちゃんを見たけれど、希和子ちゃんはさっきと同じように下を向いていた。
……言いたくないけど、訴えたい……俺に教えたいことがあるのかな?

もしかして、照美ちゃん……
俺はしゃがんで、希和子ちゃんの顔を下から見上げた。
希和子ちゃんと、バッチリ目が合った。
その目は、暗くて、ゆらゆらとしていた。

「……俺のせいで、照美ちゃん、希和子ちゃんに対して、怒ってる?」
そう尋ねると、希和子ちゃんはハッとしたように一瞬目を見開いて、それから目を伏せた。

「照美ちゃんだけちゃうで。昨日から、希和ちゃん、女子にハブられてるわ。アホらしい。」
吐き捨てるように、啓也くんが言った。

「そうか。ごめんな。」
そうならないように、せめて照美ちゃんと啓也くんは味方にするつもりで来たのに……遅かったか。