夢が醒めなくて

酸っぱいジュースを飲んで、ベッドに横になる。
義人氏は室内灯を消して、壁際にもたれた。

本気で私が眠るまで、そばにいるつもりなのか。
……気になって眠れないんですけどぉ。
と、思ったのに、私はいつの間にか眠っていた。

もしかしたら、義人氏のジュースには睡眠剤でも含まれていたのかもしれない。
私は、夜中に目覚めることもなく泥のように眠った。


どうやら、数日間の寝不足を取り戻すかのように眠りこけていたらしい。
起きたら翌日の夜だった。

「おはよう。夕方、啓也くんと照美ちゃんが、先生と一緒に来てたで。」
眠る前と同じように、義人氏がベッドサイドの椅子に座っていた。

……この人、まさかずっとココに居たわけじゃない……よね?

あ。
服が違う。

ちょっと、ホッとした。

「……お腹すいた。」
そう訴えると、義人氏は紙袋をサイドテーブルの上に置いた。

「これ、母親から。サラダ、フルーツ、サンドイッチ、ハンバーグ、パスタ、おにぎり……どれでも、どうぞ。」
どれも密封容器にお行儀よく詰められていて、すごく美味しそう。

「義人さんのお母さん、お料理、上手なんですね。」
そう言ったら、義人氏は茶目っ気たっぷりにウィンクした。

「微妙。たまにやる気になって頑張って作ってくれるんやけど、基本的にはあまり料理しはらへんかな。気に入ったフレンチ・和食・中華のシェフを招聘してレストランのオーナーにおさまってはるわ。せやし、これも作ってもろたもん。」
義人さんは、クスクスと思い出し笑いをした。

「そういや、ここ最近はずっと天然酵母でパンを焼くのに凝ってはってんけど、東京から帰ってきた妹が、母親の知らんうちに冷蔵庫に納豆を入れてんて。そしたら、母親の大事な天然酵母は完全に納豆菌に負けてしもてなあ。めっちゃ怒って、パン焼くの、辞めはったわ。」
あの優しそうなヒトが怒るところが想像できなくて、私はちょっと笑った。

義人氏は、うれしそうに私に食事を勧めた。
さすが、プロのお料理はどれも美味しかった。

「たぶん明日退院できると思う。ほんまはこのままうちに連れて帰りたいところやけど……美幸ちゃん、夏休みが終わったら東京行くって。」
義人氏がそう教えてくれた。

「2学期から、もう、いいひんの?転校しはるの?」

驚いてそう聞くと、義人氏がうなずいた。