夢が醒めなくて

「ほんまは、このまま掠(さら)って、連れて帰りたいねんけど……あかんよなあ。」
2つめのマンゴーピューレたっぷりのケーキを餌付けのように、私の口にせっせと運びながら、義人氏はそうぼやいた。

……そりゃ、まずいだろ。

「誘拐罪ですね。未成年者略取。……本気で言ってます?」

義人氏はこれ以上ないというほど、真面目な顔でうなずいた。
「ココじゃ治るもんも治らんわ。希和子ちゃん、寝られへんのやろ?目の下にクマができて、やつれてる。ほっといて帰れへんわ。」

……何か、義人氏、今までと違う?
遠慮がなくなってる気がする。

「大部屋に移れたらいいんですけど。……独りで眠れないんです。」
そう言ったら、義人氏の表情が一瞬かたくなった気がする。

すぐに笑顔を浮かべて、頭を撫でられたけど。
……気を遣われてる。

私の心の傷、もう聞いてるのかもしれない。
何もかもわかってて、私には何も聞かないで……守ってくれるつもりなのだろうか。
本気で、守ろうとしてくれてるのは、わかる。
わかるけど……私、本当にそれに甘えていいのだろうか。


「ご家族、反対しはりませんか?お父さんとか、妹さんとか。」
義人氏母には歓迎してもらえそうだけど……。

「どやろ。でも母親は里親に興味あるみたいやったから、大丈夫ちゃう?もし父親が反対して、里親の資格を得られへんなら、希和子ちゃんが母親の養子になったらいい。妹は、どうせ東京住まいやし気にせんでええんちゃうか?まあ、妹も反対するとも思わんけど。」

……養子は、ダメだと思う。

義人氏のお家があの大会社なら、相続の時に迷惑をかけちゃうかもしれない。
育ててもらえるだけでも、ありがたいのに……
それ以上は、罰が当たる。
ちゃんと、わきまえていなきゃ。



面会時間の終わりを告げるアナウンスが鳴った。
でも義人氏は動かない。

「帰らはらへんと、怒られますよ?」
そう言ってみたけど、義人氏はジュースをグラスに注ぎながら言った。
「ほな、希和子ちゃんが寝たら帰るわ。起きてる間は、ココにいる。」

……いやいやいや。
面会時間、終わったんだってば。
看護師さん来ちゃうよ。

「はい。どうぞ。心配せんでもナースステーションに言うてあるし。」
義人氏がくれたのは、薄いピンク色のジュース。
飲んでみると、酸っぱかった。

「これ、何ですか?けっこう酸っぱいんですけど……」
「チェリージュース。よく眠れるんやて。」

サクランボのジュース?
ふ~ん?

わざわざ不眠症に効くジュースを持ってきてくれたんだ。

相変わらず、気が利かはるわ。