夢が醒めなくて

義人氏の指が伸びてきて、私の目尻をたどった。

……びっくりした。
自分が泣いてることにも、義人氏が私に触れたことにも、私がそれを怖いと感じなかったことにも、びっくりしすぎて、私はただ義人氏を見ていた。

あとからあとから溢れてくる涙を、義人氏は指ではらっていた。
きりがないし、ハンカチなりティッシュなり、使えばいいのに。

てか、私も、どうしていつまでもこうして、されるがままになってるんだろう。
自分でもよくわからなくて、ただ、義人氏を見ていた。

義人氏の瞳に映る自分は、今にも消えてしまいそうにはかなげだった。


「希和子ちゃん。うちに来いひんか?」
私の涙が止まるのを待って、義人氏はそう言った。

……不思議と驚きはなかった。
むしろ、自然なことに感じた。

義人氏母から既に里親の申し出を受けたからかもしれないけれど、それとは別に、義人氏がいずれそう言い出すような予感があったのだと思う。
認めたくないけど、義人氏は私をつらい場所から救い出そうとしてくれる正義のヒーローか、王子様なのかもしれない。

何も言わずにただ見つめてると、義人氏は、ポンポンと軽く私の頭を叩いたような、撫でたような……。
「拒絶してへんな。はい、決定。ほな、手続き進めるし、待ってて。」
義人氏はそう決めつけると、持ってきたケーキの箱を開いて見せてくれた。
「好きなだけ、召し上がれ。プリンセス。」
……ぷりんせすぅ?
義人氏は、予想以上にさぶいことを言ってきた。

「じゃあ、プリン。変な色。」
どんな顔すればいいのかわからず、憮然としてそう言った。

「あ。これなー、グレープフルーツのプリン。俺も好きやねん。」
義人氏は、ニコニコしてプリンを手に取り、当たり前のようにスプーンに掬ったプリンを私の口元に運んだ。

「……自分で食べられますけど。」
気恥ずかしすぎて、私は顔をスプーンから逸らしてそう言った。

けど、スプーンが私の唇を追ってきた!
しつこい!
もう!

「真っ赤。かわいい。はい、あーん。」
義人氏は、悪魔のように極上の笑顔で迫った。

私は、それ以上抵抗できず、結局、渋々口を開いた。
変な色のプリンは、確かにグレープフルーツの香りと酸味とほろ苦さがして、すごく美味しかった。

「美味いやろ?」
私の顔を覗き込んで、満足そうに義人氏はそう言うと、自分の口にもプリンを運んだ。

……間接キス!……とかって騒ぐことじゃないんだろうけど……ううう。

どんな顔をしていいかわからず、私は視線をそらした。