夢が醒めなくて


一通りの検査をしたけれど、身体に異常はなかったらしい。
喘息の原因はストレスと診断された。
夕べ眠れなかったのも、相乗的に判断されている気がする。

あとは、カウンセリングを受けるぐらいしかないそうだ。
もしかして、精神疾患の扱い?

……ああ、帰りたい。
せめて、本を読みたい。

そういや、日課になった義人氏へのメールすらできない。
怒ってるかな。
それとも、また、傷ついて悲しんではるのかな。


病院の食事はまずいのが相場らしいが、施設と比較すると美味しかった。
夕食後に気管支のお薬を飲んでると、ドアがノックされた。
看護士さんが食器を取りに来てくれたのだろう。

「食事、終わりました。」
そう言ったら
「食欲はあるんやな。ケーキ食えるか?フルーツもあるで?」
と、聞き慣れた低いイイ声。

義人氏が、紙袋とお花を抱えて入ってきた。
男のくせに、花がやけに似合っている。

「……こないだは、ごめんなさい。」
口をついて出てきた謝罪に、自分でもびっくりした。

もしかして、アレもストレスの一つだったのだろうか。
義人氏は一瞬目を見張ったけど、すぐに嫣然とほほえんだ。

「かまへんよ。確かに一瞬ショックやったけど、よくよく考えてみれば、希和子ちゃん、イケズする子ぉちゃうやん? 甘えてくれた、って思うことにした。」

なんだ?それ。
ずいぶんと、都合のいい解釈じゃないか。
でも……おかげで、かなり気が楽になった。

「美幸ちゃん、東京行くんやて?びっくりしたわ。」
義人氏が、持ってきた花をテレビ台にどーんと飾ってくれた。
黄色と青を差し色にした白い花の花束は、花瓶なしでそのまま飾れるようにしてあるブーケだ。

「……行っちゃうんや。啓也くん、かわいそう。」
ボソッとそう言うと、義人氏が苦笑した。
「啓也くんも、希和子ちゃんのこと、心配してたで。美幸ちゃんがいなくなって、ますます心細くならへんか。」

……なる。
てか、すでに、もう、なってるし。

「毎日の登下校も怖い。」

本音だ。
油断すると涙がこみ上げてきそう。

義人氏は、何とも言えない顔をした。
優しい慈悲深い……ああ、そうだ、義人氏母に似てるんだ。

逆か。
2人は、やっぱり親子なんだなあと、漠然と思った。

違うのは、瞳?
……若さか、男だからか、義人氏のほうが熱っぽく感じた。
でも、そんな瞳で見られたら……動揺する。

無自覚なのか、確信犯なのか、義人氏、そうやってフェロモンを誰に対して振りまきまくるの、やっぱりあかんて。

ずるい。

なぜか、くやしくて、ちょっと睨んだ。