夢が醒めなくて

でも美幸ちゃんは、小声で言った。
「大差ないと思う。そういうもんやろ。」

「おい!」
啓也くんが声を荒げた。

美幸ちゃんは、口をとがらせて
「だって、ママがそう言ってるもん。水商売とか風俗には、元芸能人と、デビュー待ちの芸能人も多いって。事務所が斡旋するねんて。プライドが高いまま接客する子ぉは芸能界で成功せえへんって。」
と、よくわからないことを言い出した。

「芸能プロダクションなのに風俗って!まさか、美幸ちゃん?その気になってへんよね?」
照美ちゃんが問い詰めても、美幸ちゃんはヘラヘラしていた。

「んー、いい話やと思うけど。どうせ、いずれはママとお店するのが夢やったし。もし芸能界で名前と顔が売れたらチャンスやん?お金も稼げるし。」

ガタッ!

大きな音をたてて、啓也くんが立ち上がった。
握りしめた両こぶしがぶるぶる震えていた。
怒ってる……。

黙って部屋を出て行った啓也くんの背中に、美幸ちゃんがつぶやいた。
「……ヘタレ。」

思わず、照美ちゃんと顔を見合わせた。

「えーと、啓也くんって……美幸ちゃんのこと、好きなん?え?でも、美幸ちゃん、いつも彼氏いるよね、すぐ別れるけど。……それに、啓也くんって、希和ちゃんのことを好きなんやと思ってたんやけど……違った?」
恐る恐る照美ちゃんがそう聞いた。

私にも矛先が来てびっくりして、慌てて首を横に振った。
啓也くんは確かに私に優しくしてくれるし、気遣ってくれる。
でも、それは妹に対するような愛情だと思ってる。
私も啓也くんに甘えてるし、大好きだけど、恋愛じゃないし。

「見てたらわかるやん。バレバレ。」
美幸ちゃんは唇を歪めて、吐き捨てるようにそう言った。

「……わからんかった。」
照美ちゃんの眉毛が八の字になってる。

私も、うなずいて照美ちゃんに同調した。


「中学になってもココに居たくないねん。」
話が話なので、私達3人は外へ出た。
暦の上ではとっくに秋なのに、やっぱり京都の夏は夜でも暑い。
蚊取り線香をたき火のように囲んで座って話した。

「ママは相変わらずやし、全寮制の中学に行けるほどの学費は払ってもらえへんし。……私の武器がママ譲りの容姿なら、衰えるまで最大限に利用したいねん。」
美幸ちゃんは力強くそう言った。

「……まあ、芸能界で成功してスターになる可能性もないことないやろけど……」
言いにくそうに照美ちゃんはそう言うと夜空を見上げた。

スター、か。
漠然としすぎててよくわからない。
けど、普通は無理だろう。
美幸ちゃんは綺麗だけれど、それだけで成功するとは思えない。

本人もそれがよくわかっているのに……それでもココを出たいんだ。