夢が醒めなくて

「え!希和子ちゃん、元に戻ってる……似合ってたのに、ハーフアップ。」

数日後、義人氏は施設にやって来るなり私を見てそう嘆いた。

前髪は短くなってるから、元通りってわけじゃないんだけど。

私は無言で髪を手櫛でととのえるとハーフアップにして見せた。
義人氏は、うれしそうに顔を輝かせてうなずいた。

……なぜか、苛ついた。

私は勢いよく髪を解き放ち、ぶるぶると首を振った。
髪がバサバサになって広がった。

義人氏が表情をなくした。
怒らせた?
それとも、傷つけた?
何となくいたたまれなくて、私は義人氏に形ばかりの会釈をしてその場を離れた。


「希和ちゃん?何なん?あれ。義人さん、ショック受けてたで。」
夕食の時に、照美ちゃんが責めるような口調でそう言ってきた。
……自分でもよくわからないのに「何なん?」って聞かれても……答えられない。

「特に意味はないけど。」
そう言って、食事に集中しようとしたけれど、照美ちゃんは納得してなかった。

外出していてその場にいなかった美幸ちゃんが、首を突っ込んできた。
「えー、どしたん?希和ちゃん、何したん?」
何となくご機嫌そうな美幸ちゃんにそう聞かれて、私は淡々と答えた。

「何も。髪の毛を一旦くくったけど、気が変わって解いただけ。」
そう、ただそれだけのことを、大袈裟に捉えすぎだろう。
義人氏も、照美ちゃんも、めんどくさい。

「……まあ、無理せんでいいと思うけど……あの髪型は似合ってたわ。」
ボソッと横から啓也くんがそう言った。

気を遣ってくれてるのが伝わってきて、私は小さくお礼を言ってうなずいた。


「辛気臭い話はそこまでにして、ねえねえ、聞いて~。」
食事を終えた美幸ちゃんが携帯電話カバーの内側のカードホルダーから取り出したのは、白い四角い紙。

名刺?

「スカウトされちゃった!」
美幸ちゃんはうれしそうにそう言った。

「え!芸能界!?モデル!?」
啓也くんがびっくりしてそう声を挙げた。

「嫌やわ。そんな大きい声出さんといて。一応、芸能プロダクション。一応ね。」
美幸ちゃんの言い方がちょっと引っかかった。

名刺をマジマジと見た照美ちゃんが首を傾げた。
「住所、東京やん。どこでスカウトされたん?」

「そこのお寺で撮影してはってん。いいな~って見てたら、声、かけられた。」
「……あ、そうなんや。ほな、本物やん。……てっきり、AVとか風俗とかのスカウトちゃうかドキドキしたわ。」

照美ちゃんはホッとしたようにそう言った。