夢が醒めなくて

ゴーサインが出るや、思い思いの料理やデザートに突撃する仲間達。

「希和ちゃん!行くよ!」
宣言通り、美幸ちゃんは私と行動を共にするつもりだったようだが、私はお腹もすいてなかったし、そんな元気もなかった。
人混みは苦手だ。

「行ってきて。私、先生方のそばにいるから。ごゆっくり。」
そう言って美幸ちゃんや照美ちゃん、啓也くんを送り出し、私は施設長達一行のそばにいた。

「あら。あなた。希和子ちゃん、ね。まあ~~~!かわいいわ。とても、似合ってる。」
見覚えのあるお上品なおばさまがやってきて、私にそう話しかけた。
義人氏のお母様だ。

「こんばんは。いつも、ありがとうございます。こんなに素敵なプレゼント……みんな大喜びでつけさせていただいてます!」
深くお辞儀をして、そうご挨拶とお礼を言った。

義人氏母は、目を細めて私を見つめてらした。
「あら、どういたしまして。ふふ。そのリボン、やっぱり映えるわね。希和子ちゃんにピッタリ。」
……ということは?
選んだのは、このかた?
てっきり義人氏だと思ったんだけどな。

黙って突っ立ってると、義人氏母がおっしゃった。
「あのね、おばさん、こういう賑やかなの苦手なの。送り火の点火まで、別室で休んでようと思うんだけど、希和子ちゃんも一緒にどう?」
何となくホッとして、私はうなずいた。


屋上からエレベーターで一階だけ降りて、ふかふかの絨毯敷きの廊下を少し歩いて応接室にお邪魔した。
白い革張りのソファーセットが素敵!

義人氏母は、甘い香りの紅茶を入れてくれた。
これ、何だろう。
はじめての香り。
味も、おいしい!

「希和子ちゃん、和装が似合うのね。浴衣もかわいいけど、柔らかモノが映えそう。」
やわらかもの?
絹のことかしら。

「やわらかものって、こんなのですか?」
私は髪に付けてもらってる大きなリボンに触れた。

「そうそう。それも正絹ね。かわいいわ。」
ニコニコと、義人氏母はうなずいた。
ふわりと優しい甘い香りがした。

「しょうけん……。高価なものですか?」 
「いいえ。端切れだからたいしたことないわ。本当はね、浴衣をプレゼントしたかったんだけど、既にたくさんあるからって断られたの。じゃあ下駄を、って思ったんだけど……希和子ちゃんがみんなの鼻緒を新しくしてあげたって聞いて、簪(かんざし)にしたの。」

義人氏母はそう言ってから、私の足元を見てニコニコとうなずいた。