夢が醒めなくて

「美幸ちゃーん!希和ちゃーん!簪(かんざし)が届いたってー!早い者勝ち!早くおいで-!」
パタパタと照美ちゃんが呼びにきてくれた。

「届いたって?かんざしが?何で?どこから?」
既に緑の玉簪を付けていた美幸ちゃんが、照美ちゃんにそう聞いた。

「支援者さんが、みんなに寄付してくれはってんて。樹脂の安物ってゆーてはるけど、どれもこれもすっごくかわいいねん!ほら!」
照美ちゃんが見せてくれた簪は、透明な棒簪で風鈴と金魚がゆらゆら揺れていた。

かわいいっ!!!
素敵!

でも、みんなみたいに髪をアップしてたら簪も似合うけど、ハーフアップじゃあ……
ちょっと残念に思いながら手早く浴衣を着て、帯を結んだ。
美幸ちゃんとお互いに帯のゆがみを直しながら談話室に行くと、なるほど、みんなかわいい簪をつけてはしゃいでいた。

私は……
「希和ちゃんは、これ!ぴったり!」
先生がそう言って手渡してくれたのは、かなり大きなリボン。

光沢のある藍色の生地を蝶々のように中央で縫い縮め、組紐と摘まみ細工がブーケのように華やかに飾ってあった。
……一目で、安物じゃないとわかった。

てか、明らかに、ハーフアップ用、つまり私用に準備されたものだと思う。
だって、私にこの髪型を勧めたのは、義人氏。
そして、寄付してくださったのは、たぶんまた、義人氏のお母様。

まったく、どこまで気が利くんだろう。
敵わない。

何だか、もう、笑えてしょうがなかった。



その夜は、これまでの人生で一番ゴージャスだった。
施設を挙げての大移動の末、到着したのは、御所の近くの大会社。
石造りの威圧感たっぷりの大きな建物だった。

……会社名を見て、気づいた。
知ってる。
そうだ。
あの時、図書館の「人事興信録」で見た会社だ。
社長の名前は竹原要人。

ああ。
そういうことなんだ。
間違いない。
バラバラだったパズルがピッタリとはまった気がする。

義人氏は、こんなにも大きな会社の社長のご子息なんだ。
……とてつもなさすぎて、想像もつかないぐらい別世界のヒトなんだ。

エレベーターに分乗して、屋上へ上がった。
うわぁ……。
広い屋上には、屋台のようなオープンキッチンと、ビュッフェスタイルのお料理が並んでいて、大人も子供も入り交じり、けっこうな賑わいだ。

「えー!なに?これ、パーティー?ビアガーデン?園遊会?」
「こちらの会社の互助会の催しにご招待していただきました。お行儀よく振る舞って下さいね。いいですか?お行儀よくね!」

引率の先生方が一生懸命そう指導するけれど、幼稚園児から高校生までの総勢30人は完全に舞い上がった。