夢が醒めなくて

義人氏が紳士的なことはわかっているけれど、私は2人きりの車内では緊張して固まってしまうので何も話さない。

そのうち義人氏も会話を諦めたらしく、最近はIDEAの曲を2人でじっと聞いている。

……ただ、メールでは普通に意見交換できるようになってきた気がする。
本の話だけじゃなくて、その日感じたこと、言えなかった言葉を伝えることができるようになっている。

少しの言葉でも、義人氏はいろんな背景を類推してくれる。
もしかしたら、一緒にいるとすごく楽ちんなヒト、かもしれない。
……近づきたくないけど。


お風呂を出た後、髪を乾かす。
みんなが浴衣に合うように髪を結い上げようと格闘している。

私は……髪のサイドと上部だけを後ろで結び、残りの髪は垂らしたままにした。
日本風に言うと束髪くずし、最近はハーフアップというらしい。

「え!どうしたの!?希和ちゃん!かわいい!」
先日私の汗疹を指摘した若い先生が目を輝かせてそう言った。
あまり騒がないでほしい。

恥ずかしくてうつむいてると、髪を綺麗にまとめ上げた美幸ちゃんが、また微妙な言葉で庇ってくれた。
「もう!先生、うるさい!希和ちゃんにしては頑張ったんやから、そっとしたげてください!……希和ちゃん、前髪、ちょっとだけ切ろうか。」

え!
いやいや、と私は首を横に振って後ずさりした。

「ほな、いっそ、前髪全部アップしよう!……ちょっと切るのとおでこ全開と、どっちがいい?」
美幸ちゃんは2つの選択肢しか許してくれなかった。
涙目でぶるぶると首を横に振っていると、美幸ちゃんはハサミを片手に言った。

「大丈夫やから。ずっと私が希和ちゃんのそばにいるから。誰が見ても、希和ちゃんより私のほうが綺麗でかわいいねんから、希和ちゃんは私の引き立て役にしかならへんから。せやし安心して。」
「美幸ちゃん、ちょっと、ひどいかも、それ。」
何も知らない先生は、美幸ちゃんの言葉を非難した。

「だから、黙っててってば!先生は何も知らんねんから!」
美幸ちゃんは先生にそう文句を言って、私の腕を引っ張った。

「……ありがとう。」
私には、美幸ちゃんが私を守ると言ってくれたんだと、ちゃんと伝わった。

「ほら、泣かんといて。その髪型、すごくかわいい。似合ってる。これからもそうしとき?」
美幸ちゃんはそう言って、有無を言わさず私の前髪をカットした。
ほとんど目にかぶっていた前髪は眉毛の少し下あたりで切りそろえられた。

「日本人形みたい。ほんまは、すきばさみで前髪のボリュームを減らしたいねんけど……今日は浴衣やし、そのままでもかわいいかも。どうする?」

「……任せる。」
目の前が明るくて、美幸ちゃんの笑顔が眩しすぎて、私は涙をごしごしと手の甲で拭った。