夢が醒めなくて

数日後、義人氏はガーゼの和柄手ぬぐいと一緒に首を冷やすグッズを持ってきてくれた。
「タオルよりかさばらへんし、肌にも優しいから。」
……気が利くというか、親切というか……何でしょうね、もう、かゆいところに手が届く?

「ありがとうございます。……義人さんって……」
「ん?なに?」
「……いえ。」

言えない。
何だか、よくわからないヒトだと思う。
イイヒトなんだろう。
でも、誰に対しても、こんなに親切なのって、やっぱり……問題だと思う。

イイヒトでイイ男だけど、このヒトの恋人はつらいだろうな。

……ああ、そうか。
それがわかりきっているから、最初から独占できないことが大前提なのか。

義人氏には、付き合っている彼女が何人もいて、それ以外にも不特定多数のセフレがいる。
そんな最低な噂を、ごまかしも否定もしないってことは、真実なのだろう。
それでもいいって女が諦めている男……か。

わかんないな。
私なら、かっこよくなくても、気が利かなくても、私だけと誓ってくれる男の人がいい。
義人氏は……ないわ。


「何か、さ。義人さんって、希和ちゃんのこと、依怙贔屓してへん?」
8月16日の夕方、早めにお風呂に入ってる時に、美幸ちゃんがそう言った。

ドキッとした。

「単に、不憫なんやと思う。」
謙遜ではない。
たぶんそういうことだろう。

「ちょっと違う気がする。うーん。気を遣ってるとか、可愛がってる、って言うんじゃなくて……何やろう。何か、違う。」
語彙の少ない美幸ちゃんは、それ以上うまく説明できないらしい。

「じゃあ、珍しいんちゃう?……希和ちゃん、いつまでたっても、なつかへんし。」
照美ちゃんの指摘は、目から鱗だった。

そうか!
私だけが義人氏に好き好きアピールしてないからか!
……なるほど、そういうことか。

「えー、何それ。ずるい。じゃあ、私も、無愛想に接してみようっと。」
今さら、それって効果あるのかな。
「てか、美幸ちゃん、彼氏いるやん……」
思わずそう言ったら、美幸ちゃんに睨まれてしまった。

「希和ちゃんはさ、義人さんのこと、どう思ってるの?図書館とか資料館とか、しょっちゅう連れてってもろて……車の中でどんな話してるの?」

「どうって……変なヒト。あまり近寄りたくないヒト。でも、記憶力とか理解力はすごいと思う。知識の量もハンパなくて感心してる。……車の中は、無言。」

本当のことだ。