夢が醒めなくて

義人氏が今日も来た。
夏の午後の強い日差しをものともしない爽やかな笑顔を振りまいて。

「こんにちはー。今日も暑いですねえ。スイカ、差し入れ~。」

飽きもせず、義人氏はしょっちゅう施設を訪れた。
職員さんのみならず、幼稚園児から高校生まで、幾人もと親しく言葉を交わし、わいわいと楽しそうな義人氏を、私はいつも離れたところから眺めた。

義人氏は、必ず私のところにもやってきて話しかけた。
「希和子ちゃん。今日も暑いなあ。」
「こんにちは、義人さん。暑いのに元気そうですね。」

ゆるいエアコンで真夏の京都の日中を過ごすのは、かなりつらい。
せめて、もう少し強くしてほしいんだけど。
毎年、一応エアコンの効いた室内でも熱中症になってしまう私は、ほとんどのびていた。

「希和子ちゃん。せやし、髪の毛くくりぃって。汗疹(あせも)治らへんよ?」
まだ若い女性職員の先生が、義人氏からスイカを受け取って、そう口を挟んできた。

……この先生も義人氏に秋波を送ってるのが見え見えなのだが……そういうデリカシーのないこと言っちゃう女は、たぶん義人氏はお好きじゃないと思うよ?
さすがに、汗疹をばらされて恥ずかしくなり、私はうつむいた。
今も、汗でぺったりと首筋に髪がはりついている。

言葉につまってると、美幸ちゃんが代わりに窘めてくれた。
「先生、何も知らんくせに、そんなん言わんといて。」

ああ、でもその言い方だと、いかにも何か理由があるって言っちゃってるよ。
アンテナを張り巡らせてる義人氏が気にならないわけがない。
どーんと、さらに気が重くなった。



てっきり、その日のメールで何か聞かれると思ってた。
でも、義人氏は核心には触れず、熱中症予防に首を冷やすグッズを使ってみるかを尋ねてきた。
拍子抜けしたけれど、安心もした。

どうせ聞かれても何も言えない。
……言いたくない。

みんなは、たいしたことじゃない、と言う。
犬に噛まれたようなもの、とも言われた。
私だって、何でもないって思いたい。
たぶん他のヒトの話なら、そんなことぐらいで、って、私も言ってしまうような小さなこと。

でも、私はあれ以来、髪をまとめることも、水着になることも怖い。
……なるべく肌を、できれば顔もあまり露出したくない。

特に男に触れられることが、怖い。