夢が醒めなくて

なぜ、お礼を言われるのだろう。
お礼を言わなきゃいけないのは、私のほうなのに。

今日だって、すぐにこうして続きを持ってきてくれて、めちゃめちゃうれしいのに。

何か言わなきゃ。
言わなきゃ、と思えば思うほど、言葉が出てこない。

あきらめて、私は黙って頭を下げた。

職員さんに寄贈品として備品登録してもらうと、早速また読ませてもらった。
「あんまり、根詰めんときや。全67巻やで。一気読みなんかしたら、しんどくなるで。」
義人氏はそう言って帰ってった。

また、ちゃんと挨拶できなかった……。
門まで見送ってはしゃいで帰ってきた美幸ちゃんや照美ちゃんがうらやましかった。



夏休みだからと言って、朝から晩まで読書していられるわけではない。
掃除や宿題もあるし、早読みの私でも3日かかって読んだ。

……確か、義人氏が学術対象にもなってるって言ってたけど、なるほどなあ。
深いわ。
抱えきれない想いを伝えたくて、私は再び登録したフリーメールを立ち上げた。

あれ?
義人氏からメールの返信?
それも、一通じゃない。
毎日来てる!

びっくりして、一番古いのを開けた。
5日前、つまり、はじめて私がメールを送信したその数分後に受信していたメールだ。

<メールありがとう。うれしかった。たぶん、希和子ちゃんが思う以上に喜んでるわ。漫画も気に入ってくれたみたいでよかった。希和子ちゃんは、誰に共感した?>

……子供みたいな文面。
そっか。
あの日の翌日義人氏が、私にお礼を言ったのは、メールのことだったのか。

てか、メールを送信するだけで、こんなにも喜ばれるなんて……私、自閉症とでも思われてるのだろうか。


他のメールも読んでみると、義人氏はまるで日記のように、その日の出来事や関心事、読書メモみたいな感想をメールにして送きていた!
……ほんとにマメというか……。

これも気まぐれなんだろうけど、とりあえず、ずっと返信してなかったのは悪かったかな。
私は、返信メールに気づかなかったことを詫びて、改めて最初のメールに返信した。

<私は、チエちゃんを虐めるマサルくんに共感してるようです。マサルくんのチエちゃんに対する恋心は誰の目にも明白なのに、不毛なアプローチしかできないマサルくんの不器用さが歯がゆくて愛しいです。お母さんの強烈キャラに太刀打ちできないぼんぼんっぷりも、かわいいと思います。>

すると、すぐに返信がきた。

<俺も!てか、マサルは作者自身が自己投影してるから、共感しやすいのかもね。>

早っ!

内容より、やたら早い反応に、ただただ驚いた。