夢が醒めなくて

あ~~~。
何か、ものすごく、義人氏らしい気がした。

ヒトと合わせることが得意なヒトなのかもしれない。
もちろんそれは自分自身がない、というのではなく、自我よりも相手を喜ばせようとするサービス精神じゃないかな。

相手のことをよく観察していて、相手が何を望んでいるかを推察して、惜しみなく与えて、相手が喜んでくれると自分も満足する、みたいな感じ?

……結局、義人氏自身が、何一つ不自由なく恵まれたヒトやから、そんなことできるんだろけどさ。

何となく、今は、私もその恩恵を得ていることは自覚している。
いつまで続くかわからないけれど。

その日、自分でも珍しいことを言ってしまった。
「相撲頭取。どの本を読めばわかりますか?」

……義人氏が自発的に興味を持ったのがソレなら、せめて話し相手になれる程度に理解したいと思った。



帰り道は、必然的に義人氏と2人だった。
義人氏が紳士的なことはわかりきってたけど、何となく、緊張した。

客観的に見て、かっこいいんだよねえ、ほんと。
何人もの女の子が義人氏を二度見してるし。

一緒にいるのがこんな子供やから、妹にでも思われてるのかな。
……ロリコンとは思われはらへんよね?

想像して、気恥ずかしくなった。
なに、考えてんだ、私。
意識しすぎ!
私はなるべく平常心を保ちたくて、ほぼ無表情と無言を貫いた。

義人氏は、心を砕いてエスコートしてくれたけど、特に会話もしなかった。



「希和ちゃん……何?それ。」
夜、総合資料館で複写した和綴本のコピーと格闘していると、美幸ちゃんが覗きこんできた。

「『角觝詳説 活金剛傳』。の、コピー。」
「日本語に聞こえへんし、見えへんわ。希和ちゃん、読めるん?」
そう聞かれて、苦笑した。

「正直、きっつい。でも、さっき啓也くんに仮名文字の一覧表出してもろたし、頑張ってる。」
「……でも、これ、どこまでが一文字かもわからへんやん。続いてるし。」
「連綿体って言うねんて。」
「外国語に聞こえる。いや、説明いらんし。がんばって。」
美幸ちゃんは手をひらひらと振って行ってしまった。

……まあ、興味ないよね。
正直、私もこんなことになるとは思わなかった。

単に、義人氏の調べていた相撲頭取について知りたかっただけなのに、一読したら理解できそうな刊行本がなかったのだ。