夢が醒めなくて

……当然、希和の生理も把握してるつもりだったけど、けっこう普通に1,2週間遅れたりしてたので今月はまだ気にしてなかった。

えーと、1週間ほど遅れてるかな?

「調べたん?」
ドキドキする。

「まだ。でも、何となくそんな気がする。」
希和はそう言って、ニッコリ笑った。

「男の子なら『伊邪耶(いざや)』、女の子なら『進(まいら)』って名前にするの。」
……いざや?まいら?

「ごめん。ちょっと無理。受け入れられへん。何?その、キラキラネーム。」
マジで一瞬クラッとした。

希和はぷくっと頬を膨らませた。
「キラキラじゃないもん。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と聖書のイザヤ書と……」
「神道とキリスト教?坂巻のお義父さんも、あの世のご両親も泣くで。」

長くなりそうな希和の説明を遮って、希和にほほ笑みかけた。
「ほら、笑って。行くで。」

御影堂への引き戸が、すっと開けられた。
広いお堂にずらりと参列してくださった僧衣とお着物とフォーマルスーツのみなさんが、笑顔と拍手で迎えてくださる。

……恭匡さんと由未も、東京で仏前結婚式だったけど、まさか自分も仏前になるとは思わなかったな。
仏縁、ってことか。

参列者の笑顔に、希和は一瞬ぱっと顔を輝かせ、また涙ぐんだ。

俺達は、祭司の誘導で内陣へと案内され、宗祖の厨子の前に立った。
お堂全体が唸りを上げてるような迫力のある読経の唱和を聞きながら、俺は宗祖の木像を見つめた。

正直なところ、俺には神も仏も関係なかった。
でも、希和の祖先がここに繋がってるなら、俺は跪いて心から手を合わせて感謝する。
希和と出逢わせてくださって、ありがとうございます。
希和をこの世に生まれさせてくださって、ありがとうございます。
一生、俺が希和を守ります。

心の中でそう誓ったら、希和が小さくつぶやいた。

「倶会一処(くえいっしょ)。これで、死んでも義人さんと一緒♪」

……そうか。
死が2人を分かつまで、じゃないんだな。
死んでもずっと一緒、か。
……どちらかが死んでも幸せな夢はまだ続くんだな。

「希和には敵わないな。」
そうつぶやいたら、希和はパッと顔を輝かせた。

「じゃあ、子供の名前は、」
「しぃっ。声が大きい。……イザヤ以外なら、何でもいいよ。」

希和はうれしそうにうなずいた。

「そしたら、男の子なら竜と虎が飛ぶ『竜飛虎(たつひこ)』にする。女の子は、『進(まいら)』でOKね。」

そのネーミングセンスは、いったい?
もはや苦笑しか出ない。

……それでも、愛してるよ、希和。

ほら、回向文(えこうもん)も祝福してる。

どこまでも共に、と。