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「じゃあ、行こうか。お姫さま。」
厳かな仏教賛歌が流れるなか、鶴の舞う鈍い金色を帯びた茜色の打掛の希和の手をとって歩き出した。
「はい。……行ってきます、高子(たかいこ)さま。」
希和はひらひらと自分の左肩に手を振った。
……ほんの数日、こちらのお寺に身を寄せただけなのに、希和は幽霊と仲良くなったらしい。
俺には見えないけれど、希和の肩越しに会釈しておいた。
「坂巻のお義父さんが教えてくださったの。私を産んだお母さん、希久子(きくこ)さまと仰るんですって。」
御影堂へと続く渡り廊下をしずしずと歩きながら、希和が小声で言った。
「聞いたのか。」
前方を見つめ、笑顔を貼り付けたまま、俺も小声で聞いた。
「坂巻のお義母さんとはお友達だったって。」
希和の声が詰まる。
「希和。笑って。……よかったやん。ちゃんとこうして元の鞘におさまって。」
「だって、亡くなったお父さんとお母さんがかわいそうで……」
ホロホロと希和が涙をこぼした。
歩きながら懐中のハンカチを出して、そっと希和の涙をおさえる。
「ほんまのお父さんのことも聞いたんか。」
小声でそう聞いたら、希和は小さくうなずいた。
「坂巻のお義父さんの親友だったって。」
また溢れた希和の涙をおさえてやって、うなずいた。
「化粧が剥げるで。……坂巻さんにしてみたら、うっとこに希和を取られた気分やったやろうな。」
坂巻さんが希和の存在を知ったのは、希和がうちに来た年の正月。
希和を施設に預けた産婆さんが亡くなり、希久子さまと交わした手紙が遺品の中から見つかって、慌てて希和を探したそうだ。
「でも、先に義人さんと出逢ったのもご縁なら、孝義くんと私が仲良くなったのもご縁、って思ってくださって……ずっと見守ってくださって……」
ダメだ。
希和の涙は止まりそうにない。
諦めて、歩くのを中断した。
そして、そっと希和を抱きしめようとしたけど、無理だ。
分厚く重ねた花嫁衣装も、地毛で結い上げた高島田も、鼈甲の笄(こうがい)も簪(かんざし)も、白い角隠しも、全部が邪魔!
「大丈夫ですか!」
慌てて美容師の先生が走ってきて、希和のお化粧を手早く直してくださった。
希和は迷惑をかけたことを詫び、神妙に口を閉じた。
「後で、ナンボでも泣かせてあげるから、今はみんなに感謝して、笑っとき。」
そう言ったら、希和は一旦はうなずいたけれど、また歩き始めてから首を傾げた。
「今のって、Hな意味?鳴かされるの?」
「お姫さまのお望みとあらば、そっちも頑張りましょう?」
そう言ってウィンクしたけど、希和は恥ずかしそうに目を伏せた。
「お願いします、と言いたいけど……」
ん?
もしかして?
「じゃあ、行こうか。お姫さま。」
厳かな仏教賛歌が流れるなか、鶴の舞う鈍い金色を帯びた茜色の打掛の希和の手をとって歩き出した。
「はい。……行ってきます、高子(たかいこ)さま。」
希和はひらひらと自分の左肩に手を振った。
……ほんの数日、こちらのお寺に身を寄せただけなのに、希和は幽霊と仲良くなったらしい。
俺には見えないけれど、希和の肩越しに会釈しておいた。
「坂巻のお義父さんが教えてくださったの。私を産んだお母さん、希久子(きくこ)さまと仰るんですって。」
御影堂へと続く渡り廊下をしずしずと歩きながら、希和が小声で言った。
「聞いたのか。」
前方を見つめ、笑顔を貼り付けたまま、俺も小声で聞いた。
「坂巻のお義母さんとはお友達だったって。」
希和の声が詰まる。
「希和。笑って。……よかったやん。ちゃんとこうして元の鞘におさまって。」
「だって、亡くなったお父さんとお母さんがかわいそうで……」
ホロホロと希和が涙をこぼした。
歩きながら懐中のハンカチを出して、そっと希和の涙をおさえる。
「ほんまのお父さんのことも聞いたんか。」
小声でそう聞いたら、希和は小さくうなずいた。
「坂巻のお義父さんの親友だったって。」
また溢れた希和の涙をおさえてやって、うなずいた。
「化粧が剥げるで。……坂巻さんにしてみたら、うっとこに希和を取られた気分やったやろうな。」
坂巻さんが希和の存在を知ったのは、希和がうちに来た年の正月。
希和を施設に預けた産婆さんが亡くなり、希久子さまと交わした手紙が遺品の中から見つかって、慌てて希和を探したそうだ。
「でも、先に義人さんと出逢ったのもご縁なら、孝義くんと私が仲良くなったのもご縁、って思ってくださって……ずっと見守ってくださって……」
ダメだ。
希和の涙は止まりそうにない。
諦めて、歩くのを中断した。
そして、そっと希和を抱きしめようとしたけど、無理だ。
分厚く重ねた花嫁衣装も、地毛で結い上げた高島田も、鼈甲の笄(こうがい)も簪(かんざし)も、白い角隠しも、全部が邪魔!
「大丈夫ですか!」
慌てて美容師の先生が走ってきて、希和のお化粧を手早く直してくださった。
希和は迷惑をかけたことを詫び、神妙に口を閉じた。
「後で、ナンボでも泣かせてあげるから、今はみんなに感謝して、笑っとき。」
そう言ったら、希和は一旦はうなずいたけれど、また歩き始めてから首を傾げた。
「今のって、Hな意味?鳴かされるの?」
「お姫さまのお望みとあらば、そっちも頑張りましょう?」
そう言ってウィンクしたけど、希和は恥ずかしそうに目を伏せた。
「お願いします、と言いたいけど……」
ん?
もしかして?



