夢が醒めなくて

「では、9月になってから、まずは希和が坂巻さんの家の養子になるための結納の儀を執り行うわけですか?」
そう確認すると、父は苦虫を噛み潰したような顔でうなずいた。

「坂巻さんは、ほんまは希和に結婚まであちらで暮らしてほしいみたいやわ。せっかく仏縁があったんやからって得度(とくど)もさせたいらしい。得度はともかく、同居は勘弁してもろた。受験もあるし……孝義くんと間違いがあっても困るしな。」
「お父さん!もう!」
母親がそう注意したけど、父親はケロッとしていたし、希和にいたってはケタケタと笑った。

「ないない。今さら、ないですよ。あ~、おかしぃ。」
あっけらかんとしてる希和に俺も自然と頬がゆるむ。

「それで、結婚のための結納は?11月ぐらいですか?」
そう尋ねると、父親は原さんに再び視線を送った。

「11月の大安の日曜日に結納をお納めしまして、4月の天赦日の土曜日に坂巻さまのお寺で挙式の後、最寄りのホテルで披露宴の予定です。坂巻さまは、希和子さんの受験が終わりましたらお寺で少しお勉強されての得度を希望してらっしゃいます。」
原さんが淡々と説明する。

「半年延期、か。」

俺がそうぼやくと、父親が言いにくそうに言った。

「希和子が受験に失敗したら、さらに一年延期だそうだ。」
「えっ!?」
希和が、あわあわと狼狽した。

「志望校のランク落としていい?」

涙目の希和がかわいくてかわいくて……俺はもちろん容認したけど、
「坂巻さまは、孝義さんと同じ大学を指定されてます。」
と、原さんが補足した。

まあ……がんばれ。


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翌年、希和は何とか孝義くんと同じ大学、同じ学部に合格できた。

ただ、俺が博論を提出できなかった……希和の受験勉強にがっつり協力した結果、そういうことになってしまった。

……まあ、来年提出を目指す……か。

小門はちゃんと課程博士となり、あおいちゃんも大学を卒業したため、一家は神戸に帰った。
光くんと薫くんは毎日桜子と遊べるとはしゃいでいた。

小門一家の借りていた旧天花寺邸には、啓也くんが住み始めた。
准看護士の学校を卒業した美幸ちゃんと結婚して。

あ、そうそう。
十文字さやか嬢が妊娠し、シングルマザーになる決意を固めた。
お腹の子の父親は100%原さんらしいが、結婚の意志は2人ともないらしい。
年の差婚もいいと思うけどなあ。

周囲が少しずつ変わっていく。
思い通りの人生じゃないかもしれないけれど、少しでも幸せになるために……